その兎は恋をする【呪術廻戦】

こここいここい ページ29

　
　
　
　
　
　
　
　
　
『え、っと…？』



言ってくれない、とは。なんの事だろうか。
何か言わなければならない事があっただろうか。
全くぴんとこない様子の私を見てパンダは「だから言っただろ」と呆れる素振り。



「Aは自分の話をする前提で生きてないんだって。誰かに頼るっていうそういう思考が入る隙もないくらいあの人の影響を受けてる」



まぁ後半はさっき分かったことだけど、と付け足す。あの人とは名前は忘れたがあの女の事か。



「まぁ、それもそうでしょ。僕と出会った時のAの体、ぼろぼろだったもん。特に手とか」



今も少し、と私の手を取り親指と人差し指の爪を見せてくる。爪が欠けていて皮膚には血が滲んでいた。



「あの時は欠けるとかじゃなくて爪剥がれて血もどばどばだったのに、適当に包帯巻いてるだけだったから治るのに時間かかってさ。
無頓着とかそういうレベルじゃないから」

『倒れなければ重症じゃない』

「そういうとこがやばいんだよ」



分からない、と眉を顰めながら瞳を軽く伏せる。
私と五条先生は他人だ。感覚が繋がっている訳じゃない。



なのに、どうして。そんなに辛そうに笑うの？
どうしてそんなに苦しそうなの？



『……話すことも話したんだし、何より私個人の問題なんだから、みんなはしっかり休んでよ』

「断る」



即答かよ。頑固な真希が腕を組んで威圧的な雰囲気を醸し出す。
口がぱくぱくと動いて、しかし言葉にするのをやめた。何を言っても地雷な気がする。




「Aちゃんはお母さんとどうなりたいの？」




今まで黙っていた乙骨がそう問いてくる。
どうなりたい、その理想は。




『今更、どうにもなりたくないよ』




父親はいない。母親とは分かり合えない。
ただ、普通の家族になりたいと望んだところでそれは叶わないのなら望むことをやめるべきだ。
ならば身近にある幸せだけを、守ればいい。




『みんながいるならそれ以上、いらない』




俯くとぱさりと長い髪の毛が落ちてきて視界を制限する。ぽつりと呟いたその言葉はこの静かな空間で聞こえないなんてことは無いだろう。
数秒の間があって、その場の全員が咳き込むのが聞こえた。




「おま、んんん……はー……」




真希が何かを言葉にしようとして、諦めた。
顔を上げて横を見れば五条先生が口を抑えて明後日の方向を、棘を見れば耳が真っ赤だった。





何だというのか。私は首を傾げた。
　
　
　
　
　
　
　
　

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