その兎は恋をする【呪術廻戦】

雷鳴 ページ23

　
　
　
　
　
控えめに、おどおどと。腹部辺りの服をぎゅうと握っている。消極的な彼らしいと言えば彼らしいが。





『大人…ね。そうだよ、全ての発端は大人だ。』





満たされることのない愛、それを埋めるために自らの身体を売り愛を振りまく母。
見えて気づいても巻き込まれることを恐れてあえて知らないふりを選んだ祖母。
原因不明の死を遂げた父。
金をむしり己の熱を吐き出すためだけに見せかけの愛を説いて母を利用した男共。



子供を見ず自らの昇進出世だけを目論む教師共。
優秀な術式を刻んだ女児に歓喜し各々が利用するために様々な手を用いて鍛え、その者を死ぬまで使い回そうと企む呪術連の重鎮。




誰も彼も女児の心に目を向けなかった。




その話をするの？私が？何のために、こいつに？
悲劇のヒロインにでもなりたいのか？
自分だって何も抵抗してこなかったくせに、いっちょ前に何もしてくれないなんて嘆くのか？




それでは私が嫌いな母と同じではないか。





『だから子供である君には関係ない、余計な話は止めてさっさと祓うぞ。』




何のためにあの時出会った不審者感満載な五条悟について行って東京まで来たと思ってる。
何のためにこうして呪霊を祓って祓って祓って身を削っている？




「関係あるよ！」




一歩、ざっと踏み出した彼の靴が地面を擦る音。
なよなよした彼から思いがけない大声が聞こえて驚き目を見開いて振り返る。
我ながら、今は間抜けな顔をしていると思う。
中途半端に開いた口からは息だけがもれた。




「鳴瀬さんは、初めての人なんだ。」




何のだ、と当然の疑問を持つ。
私が呆ける私の手をがしりと、思いがけず大きく骨ばった両手で包み込むように掴む。
ずずいと近寄ってきた顔にまたも驚く。





「初めて里香ちゃんの事を、ちゃんと見てくれた人だから。」


『り、か…ちゃん？』


「初めて会った時に君は、僕を見てなかった。」




ずっと里香ちゃんの事を見ていたでしょと小首を傾げる彼にそういえばそうだったなと思い返す。


祈本里香、彼女が作り出す独特な気配が、冷たい空気を纏うその姿がとても印象的で。
それ以上に、そんな彼女が心の底から、自身がどうなっても構わないと思うほど愛す乙骨へと向ける視線の熱さに、否応なく惹き付けられたんだ。





複数に愛を振りまく母とは違う、純愛に。
初めて見たそれに、雷で打たれたような衝撃を。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　

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