その兎は恋をする【呪術廻戦】

兎と無下限 ページ14

　
　
　
　
　
　
「ありがとうございました〜。」



家の近所…ではなく、家から出来るだけ遠くにある、しかし徒歩で往復しても疲れないくらいの距離にあるコンビニ。


可愛らしい笑顔の店員さんが放つマイナスイオンに癒されながらいつもよりましな心臓の重みに唇を尖らせてにやけをおさえる。
一人でによによ笑っていたら変に見られるからね。そこんとこ気をつけよう。


幼少期から周囲に会話をする相手がいなかったがために悪化した脳内一人語り。
たまに自分で勝手にツボって笑っていたりする。
普段は静かだとかクールとか澄ましてるだの言われたりするが喋るのは意外と嫌いじゃない。



『…しかし、暑い。』



周りに人がいないのを知っているからこそからこそ、声に出して不満をもらす。
じりじりと太陽が容赦なく若人の白い柔肌を焼きこがそうとしてくるのを、汗が流れにくいものの感じる不快な熱に顔を顰める。


日本列島、北の大自然、そこの自然児共は暑さに弱く寒さに強い。
東京の人々が三十度くらいをそこそこ暑いので熱中症に注意、などと騒ぎ出すその気温をこの北の地で出してみろ。すぐに全員溶けるだろう。



こういう日はリア充とかいう奴には出会いたくない。いや、こういう日に限らず出会いたくない。



「ね〜え、お兄さん。ちょっとだけ！ね？」

「えぇ、やだ僕ったら罪な男〜。」



君みたいな美人さんに、こんな顔させちゃって。
自分に声をかけた女の耳元、甘ったるい声でそう囁く。無駄に耳がいいとこういう聞きたくないことまで聞こえてくる。


態とらしく舌打ちをして、頭を直接焼いてくる日光にも苛立ち、コンビニのお姉さんを思い出す。
お姉さんの笑顔、まじプライスレス。


そういえば飲み物買い忘れたな、と。
先の男女からも目につくという悪い場所にどんと立った自動販売機へと歩き出す。
別に、あの二人がどうなるかとか気になる訳じゃないからね。ほんと。


ひんやりだぜ、と馬鹿らしい台詞をこちらに伝えようとしてくるシロクマを睨みつけつつズボンのポケットから小銭を適当に出す。


少しばかり多く出してしまった、と手元を見ながらそう思って、上から聞こえる呻き声に気づく。



「かゎあぁいああ゛。」

『喉乾いたの？お揃い。』



ちゃりんと、耳心地良い音をたてて小銭が数個、穴へと吸い込まれていく。
私はお金が好きだ、だから無駄使いなどしない。



『君が何好きか分かんないから、文句は無し。』



　
　
　
　

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