兎と無下限 ページ12
数年の時が経ち、十三歳になった。
中学一年生、陸上部。大切な大会前の事。
「あぁ、やっと帰ってきた。こんな時間まで一体どこに行っていたの。」
『……学校に。』
「学校に行くことはお母さんより大事なの?」
は、と言いそうになって、でも飲み込んだ。
こんな時間…まだ十七時だろう。
時計を見て、そう思って、ふと気がついた。
男に会う時必ずつける香水の匂いが無い。
母は男が変わる度にその好みに合わせて香水を変える、そのくせ使いきれやしないから床に投げ捨てられるものが増えるばかりだ。
また、男に捨てられたのか。
「ねぇ、お母さんが大事じゃないの、学校が、部活がそんなに大事なの?」
『……ううん、母さんの方が大事。』
「そう…!」
適当に答えれば母の顔が明るくなって。
そして笑顔で言い放った。
「なら学校やめてきて。」
『……ぇ、。』
掠れた声が出た。義務教育は、と幼稚な頭が訴える。それ以前に部活、大会近いのに。
普通さ、学校って絶対行くものじゃないの。
「行かなければいいわ。大丈夫、お母さんは分かってるから。」
『いや、でも、』
「いいよね、ね。A。これからはもっと一緒にいましょう。」
母はひとつの事しか見えない。
惚れた男…父だけを見て、亡くなってからは私を見て、男が出来たらまた私を見なくなる。
私が学校をやめたところで、家にいる時間が増えたところで母は私を見ない。
なら従わなくても…そう思った時、数年前に祖母から言われた言葉が頭を過る。
「あの子を一人にさせないで。」
呪いのようなその言葉は私の心を蝕んだ。
『……うん。もう学校も、部活も行かないよ。』
母と目は合わさずに、爪と爪をがりがりと削りあいながらそう答えた。
その日から私は学校に行かなくなり、家で母の帰りを待つのみの生活になった。
『…すみません、学校には、もう。』
携帯電話を持っていなかったとはいえ、家に電話は置いてあったから、そこに学校の先生から、毎日連絡が来ていた。
何故来ないのか、いい加減来なければ、とか。
「中学校の生活も我慢できないなら、社会なんて到底無理だぞ。」
『…すみません。』
電話の向こうの先生が私を叱る。
名前が何だったか、覚えてはいない。
『もう、かけてこないで下さい。』
電話機のコンセントをぶちりと抜いた。
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甘蜜蜜華(精神安定剤())(プロフ) - しし。さん» はい!発作です!!嬉しがってくれて嬉しいです!(?)更新頑張ってください! (2021年2月9日 16時) (レス) id: 80388bac17 (このIDを非表示/違反報告)
しし。(プロフ) - 甘蜜蜜華(精神安定剤())さん» ほ、発作的な何かが起こってらっしゃる.....?好きなんてそんな、とっても嬉しいですありがとうございます!!! (2021年2月9日 6時) (レス) id: 5f5d2e19fb (このIDを非表示/違反報告)
甘蜜蜜華(精神安定剤())(プロフ) - ひゃぁぁぁ!!!!!!好きです!もうっ!……ああっ!だいすき!! (2021年2月8日 22時) (レス) id: 80388bac17 (このIDを非表示/違反報告)
しし。(プロフ) - Arisuさん» うばぁ〜!!嬉しいですありがたや〜。乙骨先輩良いですよね...まじでリアコ製造機。大好きって言って頂きありがとうございます!!!もうしばらくこの作品にご付き合いくださ〜い!!!!! (2021年1月22日 11時) (レス) id: 5f5d2e19fb (このIDを非表示/違反報告)
Arisu(プロフ) - この作品大好きです!私も乙骨くん推しなんですよ!もう作者様様です! (2021年1月22日 7時) (レス) id: 5506a0fa2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しし。 | 作成日時:2021年1月1日 11時