6.完璧すぎる男 ページ6
「立派なマンションですね。」
「そう、ですか？
ま、いつも綺麗に管理しているんだな、とは思いますけどね。」
まるで高級ホテルのようなロビー。
お洒落なフロント。
装飾が施されたエレベーター。
あまりの豪華さに見とれていると、とんとんと軽く肩をたたかれる。
「月影さん？」
「…あ、すみません。」
「いえ、お気になさらず。」
エレベーターが開くと、彼はすかさず扉を片手で押さえた。
彼女は軽く会釈し、導かれるように乗り込む。
乗り込んだことを確認すると、彼も乗り込み、自宅がある最上階のボタンを押した。
「最上階、実は僕の部屋1つだけなんですよ。」
扉が開いた瞬間、びっくりするかもしれませんね、
なんて言いながら、彼女に微笑みかける。
「さ、着きましたよ。」
ゆっくりとその扉が開いた。
「え…ここって！？」
彼女が驚くのも無理はない。
開いた瞬間、真っ先に見えたのは廊下でもドアでもなく、たくさんの靴が並んだ正真正銘の玄関。
「最上階は、僕専用の階。僕がいないと止まらない階なんだ。」
そう言って少し自慢げに話す彼は、先程とは違いなんとなく子供っぽい雰囲気を纏っている。
それにしても、この人いったい何者？一般の会社員にしてはエスコート上手すぎるし、
…まさか、どこかの執事？
依頼として引き受けている以上、彼女のなかで次々と疑念が浮かぶ。
それを知ってか知らずか、彼はテーブルにティーセットを並べ始めた。
「とりあえず、そちらのソファに座ってください。少し、休んでからお話しましょう。」
「いや、でも私仕事でこちらに来ている身ですし。」
「まぁまぁ、まずは紅茶でも」
どうぞ、と紅茶の入ったティーカップを乗せたソーサーが彼女の前まで運ばれてくる。
心地よい香りに、彼女は手を伸ばし、ゆっくりとカップに口をつけた。
「…お、美味しい。」
「でしょ、僕、紅茶にはうるさい人間だから。でも、良かったです、喜んでもらえて。」
顔を見合わせると、ふふっと思わず笑みがこぼれる。
が、それは束の間。
少しずつ、彼女の目の焦点が揺らいできた。
「あれ、なんか…すごく眠いような、気が、して…」
「月影さん、」
すぐに、他人から出されたものに口つけないほうがいいですよ。
警告ともいえるようなその言葉を聞きながら、彼女の意識は少しずつ遠ざかっていった―――
「うん、計画通り。
…え？あぁ、大丈夫だって。俺、そんな簡単に手出す男じゃないから。」
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作者名：日和 | 作成日時：2020年11月22日 18時
