感情回収、記憶抹消いたします。 (ページ5)

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5.あるはずのない依頼ページ5

部屋を出た彼女は、手渡された資料を見ながら、運転手付きの車で目的地へと向かっていた。
「中島裕翔、大企業の社員さんか…彼からいったい何を回収すれば」
「どこかに書いてあるのでは？」
ハンドルを握りながら華麗に運転する男、髙木。
伊野尾家で雇われている専属の運転手である。

「それが、書いてないの。聞き出してってことなのかな。」
その言葉に、あ、と髙木が反応する。
「そういえば、伊野尾様から言伝を預かっておりました。」
大変失礼いたしました、と申し訳なさそうに、ルームミラーに向かって頭を下げた。
「いいよ、気にしなくて。で、何…？」
「今回はいつものような潜入ではなく、直々の依頼とのことです。」
「依頼…？」

仕事内容が特殊なため、ターゲットを決めるのは社長である伊野尾のみ。
そして通常、潜入調査のように周囲の人間から少しずつ聞き出してから、
ターゲットに接触し、感情を回収する。
しかし今回は依頼。
つまり、この仕事を知っている人間、そして彼の正体をも知っている可能性のある人間が今回のターゲットということになる。

「ねえ、依頼してきた人って」
「到着いたしました。」
髙木が言葉をかき消すかのように、車のドアを開け、彼女の手をとる。
車から降り、彼女の目に飛び込んできたのは、立派な高層マンション。

「え、じ、自宅！？」
「では、私はこれにて」
「あ、ちょっと―――」

「あなたが月影さん…？」
無情にも去っていく車を見ていたら、長身のスーツ姿の男性が話しかけてきた。
月影とは、仕事の際に使う偽名。
間違いない、この人が今回のターゲットだ。
「そうです、が…」
「お待ちしておりました。」

こちらへどうぞ、
その言葉とともに、彼女はターゲット宅のある高層マンションへと足を踏み入れたのだった。