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36.条理と不条理 ページ36

その問いかけに、彼は口を紡いだ。
「もし僕が魔法を使えるなら、今すぐ涼介に太陽が平気になる魔法をかけるし、Aにかかった魔法を解いて元に戻す。でも、人間の僕にそれはできない。この世界ってさ」
もともと不公平なんだよ。

侑李の言葉に、涼介がはっとした顔を見せる。

「だからさ、Aを涼介の道具にするのは違う。涼介のためにAが犠牲になるなんて絶対違う。‥‥補い合うの、不公平だからこそ。」


「‥‥知念。俺、さ」
気まずそうに侑李の顔を一瞥する。
視線に気づいた侑李は、ゆっくりと天井を見つめ始めた。

「本当はさ、僕だって赦せないよ。Aを傷つけてまでやろうとした涼介を。だけどさ、それで仕返しとか、復讐とかやり始めたらキリないでしょ。‥‥だからさ、」

まずはA、解放してくれる?

視線を戻す侑李。
すると涼介がふぅっと一息吐いた。

「‥‥‥‥ったく、分かったよ。裕翔、今すぐ解放して。」
すると中島は、了解といって銃を下ろし、彼女からあっさり離れた。
解放された彼女はすぐさま有岡のもとに駆け寄る。

「お嬢様‥‥!!!!」
有岡も彼女に向かって走る。すると、何も言わず彼女が先に飛び込んできた。
「‥‥お、おじょ、さま!?」
まるで子供のようにきゅっと抱きつく。
いつもとは違う様子に驚く有岡。
「こ、怖かった‥‥」
彼女の乱れた息遣いから、どれほどの恐怖だったのかが有岡にも伝わってきた。
さすがの彼も感情を抑えきれないのか、少し迷いの表情を見せた後、ゆっくりと彼女の頬に触れた。
今にも泣きそうな有岡を不思議そうに見つめる彼女。

「今だけ、今だけでいいから、赦して。A‥‥」
「‥‥?」

ぽかんとした彼女の唇に、ほんの一瞬だけ重なる唇。
言わずもがな、決して赦されない行為。けれど、どうしてもそれ以外思いつかなかった。
震えている彼女を、一瞬で安心させる方法を。



「あ、りおか‥‥」
「お嬢様、少しは落ち着きましたか?」

先程の出来事がまるで幻だったかのように、次の瞬間には執事の顔に戻っていた。

とはいえ、涼介も侑李も一部始終を見ているわけで。
「うわーずいぶん大胆だねぇ。」
「有岡、‥‥あとで、話あるから。」
「たいっへん、申し訳ございませんでした!!
あの、罰なら何でも受けますから‥‥」
深く頭を下げた後、しょぼんとする有岡。

ったくもう、と渋い顔の侑李。でもその声音はどこか明るかった。

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作者名:日和 | 作成日時:2020年11月22日 18時

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