31.月影という名前 ページ31
意味深に微笑む中島。
その表情は、彼女が見てきた彼とは似ても似つかないほど不気味だ。
「‥‥中島さん、なんでいるの。なぜ私の本名を」
「君のお兄さんに、他の魔法がかからないようにしてもらってたんだ。本名を知ったのはずっと前。会ったのは確かにあの時が初めてだよ。だから顔は知らなかった。‥‥でも知ってたんだ、山田Aの存在は。」
ゆっくりと彼女に歩み寄る。
すかさず侑李が彼女を隠すように前に出た。
「ゆーてぃ、分かってるよね。」
「残念ながら今は知念様に従うことはできません。」
「‥‥どういうことだよ。」
「伊野尾という魔法使いから守ること、それが一つ目の任務。そしてもう一つは、我が主に彼女を渡すこと。」
「ってことは、やっぱり涼介と‥‥!!」
「ええ。ですから今すぐ」
彼女をこちらへ渡していただけますか。
それはまるで機械みたいな、口調。
そして彼の表情も、どこか冷めていた。
「僕がそんな簡単に渡すと思う?」
「大変恐縮ですが、あまり手をかけさせないで下さい。‥‥手荒な真似はしたくないので。」
中島も一切譲る気はないようだ。
すると彼女は何かを決心した目で、侑李の隣に立った。
「A‥‥?」
「ねぇ、中島さん。聞いてもいい?」
「なに。」
「いつ私が山田Aだと分かったの?」
彼女の問いかけに、いい質問だねぇと片方だけ口角を上げる。
「"月影"という名前でピンときた。月影、すなわち月の光。‥‥昔から大ちゃんが言ってたんだ。太陽と月みたいな兄妹だって。でもね、君のお兄さんに仕えてた人間からしたら、貴女は月を照らす太陽なんかじゃない。月から放たれる光なんだよ。」
その言葉で、彼女の脳裏に焼き付いた記憶の断片が走馬灯の如く駆け巡るーーーーーーーーー
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作者名:日和 | 作成日時:2020年11月22日 18時