4.秘密の部屋 ページ4
四方八方、白い部屋。
その真ん中で、青いワンピース姿の女性が蹲っていた。
「食事持ってきたよ。」
コンコン、というノック音とともに、ゆっくりと部屋のドアが開く。
「いらない」
「だめだよー、ちゃんと食べなきゃ。この仕事は体が資本なんだから。」
「だって私、こんなことやりたいなんて一言も」
ガシャン、と乱暴に食器が置かれる音が響く。
「俺さ、聞き分けの悪い子は嫌いって言ったよね」
びくびくしている彼女を間髪入れずに押し倒す。そして長い手先が彼女の首元にかかった。
「まっ…て…」
「もう忘れたの？あの時の約束。大ちゃんを助けてってAが言ったんだよ。だから今ここにいるんでしょ？」
その言葉に、彼女の身体がぴくんと動いた。
「なんだ、覚えてるんじゃん。今日もきちんと回収してきてね。
…じゃないと、どうなるか、Aなら分かってるよね。」
俺は何時でも構わないからさ。
にこりと笑いながら脅し文句を並べるこの男こそ、伊野尾慧。
あの専門店を立ち上げた、社長である。
感情の回収という、非現実的な行為をもとに成り立つお店。
それもそのはず、彼の正体は人間ではなく、魔法使いである。
だが、このことは一切公にはされていない。
散々脅された彼女は、しばらくして食事を綺麗に平らげた。
そして、彼から資料を受け取ると、すぐさま部屋を後にする。
静寂に包まれる部屋。
残された空の食器を見ながら、ゆっくりと彼の口角が上がる。
「そのうち、君もこの器みたいに空っぽになる日が来るかもね。
なんたって俺の一番の好物は―――――君の絶望だから。」
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作者名：日和 | 作成日時：2020年11月22日 18時
