感情回収、記憶抹消いたします。 (ページ29)

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29.消えた記憶ページ29

一方、
有岡と薮は、車に乗って別棟の従業員専用の医務室へと向かっていた。

部屋の前に立つと、薮がドアを開け、灯りをつける。有岡は慧の身体を一旦ベッドに乗せた。
「ご丁寧にありがとうございました。‥‥あ、あとは大丈夫ですので」
「ですが、あの部屋に戻るには」
「職業柄、一度通れば覚えられますから」
「承知いたしました。‥‥ではこちらお渡ししておきますね。」
そう言って、差し出されたのは車の鍵と侑李の部屋のカードキー。
有岡は軽く頭を下げ、受け取った。

「もし何かございましたら、あちらの電話の受話器を上げて下さい。すぐに私の方に繋がるようになっておりますので。」
それでは、と言って薮は部屋を出ていった。

パタンとドアが閉まるなり、一息吐く有岡。
そして、ベッドに横たわる慧の身体に丁寧に布団をかけていった。
「‥‥これで、よしっと。」
ふと見ると、すぅすぅと心地よさそうに眠っている慧。

これほど無防備な姿を見るのは、有岡にとって久しぶりだった。悲しそうな眼差しで、彼の髪をさらさらと撫でる。
「いのちゃん‥‥お前なんであの時言わなかったんだよ‥‥」
当然返事は返ってこない。だが、有岡はさらに続ける。
「確かに俺はお嬢様を一番に考えて動いてる。だから、彼女を傷つけるやつは誰だろうと許さない。だけど、いのちゃんの背後にいるやつも、俺は許さないから。それだけは覚えておいて。」

そう言って、部屋の灯りを消そうとした時だった。
「‥‥ひと、りに、し、ない、で‥‥‥‥」
か細い声が、有岡の耳に届いた。
「いのちゃん！？」
「‥‥ん、あれ‥‥‥俺、なんでここに‥‥」
寝転んだまま、ぼんやりと有岡を見る。

「倒れたんだよ、お嬢様の魔法で。」
「お嬢様‥‥‥‥って、誰？」
その言葉で、有岡には彼の身に何が起きたのか、一瞬で分かった。
「‥‥いのちゃん、あのさ」
「魔法をかけろって脅されたことは覚えてる。だけど、思い出せない。」

回収魔法をかけた相手、誰だったっけ‥‥

頭を抱え始める慧。
「無理しなくていいよ、いのちゃん。」
「でも、気になる‥‥なぜかは分からないけど‥‥」
「もう夜だし、今日はゆっくり休んで、さ」
ぽんぽんと肩をたたく有岡。
しかし慧の表情は険しいまま。
するとどこからともなく、声が聞こえてきた。

「‥‥ったく、お前見てると本当イライラするなぁ。」
煙のようにふわりと現れたのは、

「り、涼介様‥‥！」
「‥‥！！」
慧に依頼した本人、山田涼介だった。