14.越えられない壁 ページ14
彼女の儚げな表情が、水槽に歪んで映り込む。
「有岡、」
「なんでしょうか」
「普通、ってなんだろう、ね。」
「それは、」
「月影さんっていろんなこと考えているんだね。」
有岡が何かを言いかけたところで、中島が会話に入る。
「いわゆるお嬢様って、良い意味で純粋で、だけど世間知らずというか浮世離れしてるイメージなんだよ。でも、月影さんはすごくしっかりしてて、一般人でも考えないようなこと考えてる。」
言われた本人は、そうかな、ときょとん顔。
「裕翔、ようやく分かってきたみたいだね。」
「ああ、なんでここまでして大ちゃんが助けようとしてるのか。‥‥執事として一番お仕えしたいと思う人柄だから、でしょ。」
「正解。」
「いいなぁ、俺も月影さんみたいな人に出逢っていたら」
ぽろっと出た言葉。急にはっとした表情に変わる。
「どうしたの?」
「ん?いや、大ちゃんが羨ましいなぁって改めて思っただけだよ。」
しかし一瞬だけ、どこか寂しそうな顔を見せた。
「裕翔、言っとくけど絶対譲らないからな。」
「あはは、大ちゃんまたそれ?大丈夫だって。今困ってないから」
「え、てことはお前もしかして‥‥」
「残念ながら1人だよ!悪い?」
「いや俺なんも言ってないから!」
「ちょっと二人とも静かに!」
彼女の一声で、加熱していた二人の口がぴたりと止まった。
「‥‥そろそろ、帰りましょうか。」
任務もまだ終わってないですし。
有岡が申し訳なさそうに、二人を現実に戻す。
「そう、だったね。」
「でも、回収してほしい感情なんて、」
「あるよ」
彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「僕の失恋の悲しみの感情」
「失恋‥‥?」
「僕ね、好きになっちゃいけない人を好きになっちゃったんだ。」
月影さん、貴方のことを。
「‥‥え、いや、でも私には恋人いないし、そもそもまだ返事もしてないから失恋とか」
「なーんか、ずいぶん仲良くなったみたいだね?ゆーてぃ。」
長身の男性を引き連れた男が、三人に近づいてきた。
彼を見るなり、有岡と中島が揃って丁寧にお辞儀をする。
「「ご無沙汰しておりました、知念様。」」
「相変わらずかたっくるしいね。二人とも。」
彼女はぽかんとしながらその様子を見ていた。
そんな彼女に気づいた彼は、にこりと微笑んで優しく手をとり、手の甲にキスを落とす。
さらにぽかんとした表情の彼女。
「やっぱり覚えてないんだね、僕のこと」
「ごめんなさい。」
「いいよ、謝らないで。」
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作者名:日和 | 作成日時:2020年11月22日 18時