21話 ページ22
『えっ…いや、あの……』
確かに聞きたかったけれど、無理に聞いてもいい事なのか。おついちさんの中でそれがどうしようもなく悲しい記憶なら、無闇矢鱈と詮索したくない。
だからこういう時、どうすればいいか私には分からなかった。
「ふふっ、Aちゃんは優しいね」
『おついちさんの方が、もっとずっと優しいです…』
こんな身寄りもない私を引き取ってくれて、食事や安心して眠れる寝床を用意してくれた。
私にとってそれはどんな事より嬉しくて、これが幸せなのかなって考えちゃったりした時もあった。それこそ、返せれないくらいに恩を感じている。
「じゃあ、そんなおついちさんの昔話を聞いてくれる？」
赤信号で速度を落とした車、こちらをちらりと見た瞳に頷いた。
その瞳がどこか悲しげに揺れていたのは、きっと今から話す事に関係しているんだろう。
窓の外には沢山の人がそれぞれの道を歩いていた。そんな中、ゆっくりでいてそれでもって芯の通った声が鼓膜を揺らす。
「数年前、僕がまだ組織の人間だった時に一人の青年が組織に入ってきてね。組織内ではコードネームで呼びあっていたんだけど、彼はリコリスと名乗ったんだ」
彼は実に優秀だったそうで、あっという間におついちさんの隣に立てるくらいに成長したらしい。そんな彼は、一人の女性を愛していたそうだ。それが、アヤビさんだったという。当時、アヤビさんは下町の看板娘で、任務の最中に出会って一目惚れしたとか。
「組織に入って一年後、リコリスはアヤビさんに告白をするって言って張り切っててさ、その日の任務の後に逢いに行く約束をしてたんだ」
赤信号がやがて青に変り、車が動き出す。
流れ出した景色を見る暇もなく、おついちさんはこう言った。
「でも、その日の任務で僕がヘマしちゃって…」
『ヘマって…？』
「敵を倒し損ねてたんだ。僕もそれなりに浮かれてたんだよ、彼が漸く幸せになってくれることに。組織にいる以上、結婚はかなり慎重になるんだ。自分が死んだら家族を残してしまうからね。でも彼がそれを選んだ事が嬉しかった。僕はね、彼の手をこれ以上汚したくなかったんだ」
ハンドルをぎゅっと握り、おついちさんは深く息を吐く。辛そうに歪められた口に、私はどう返せばいいのか分からなくなった。
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北海ユキノコ(プロフ) - 続きを楽しみに待ってます！頑張って下さい！応援してます！ (2023年2月20日 17時) (
レス) id: cfe4c19063 (このIDを非表示/違反報告)
北海ユキノコ(プロフ) - いつも、ワクワクしながら読んでます！ (2023年2月20日 17時) (レス) @page41 id: cfe4c19063 (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - ばおばぶさん» コメントありがとうございます…！何度も…！！本当にありがとうございます。これから登場人物も増えていく予定ですので、お楽しみくださいませ！！ (2022年6月20日 0時) (レス) id: 670de1abda (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - konbu_3723さん» コメントありがとうございます…！とても嬉しいです…、リアルの方でバタついていたのもありそのお言葉で涙が出てしまいました。更新頑張ります。暑い日が続いてます。konbuさんもどうかお体に気をつけてください。 (2022年6月20日 0時) (レス) id: 670de1abda (このIDを非表示/違反報告)
ばおばぶ(プロフ) - 御三方にハマってから占ツクでこちらのお話を見つけて実は何度も見に来ていたので更新とても嬉しいです！！今後の展開も楽しみです(*´﹀`*) (2022年3月26日 2時) (レス) @page38 id: 656b6dd078 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：。 | 作者ホームページ：http:/http://commu.nosv.org/p/tensan819
作成日時：2019年3月7日 18時
