16話 ページ17
その後、気まずい空気の中で昼ご飯を食べたけど何故か味がなかった。肉はゴムを噛むようで、ご飯はネチャネチャという食感だけ。噛めば噛むほど味が分からなくなる。
どれも美味しく感じない。
こんなにも美味しそうなのに…
ちらっと伺うように兄弟を見やると、それはそれは幸せそうに唐揚げやらご飯やらを口に頬張っていた。弟者さんなんて口端にご飯粒つけて食べてるし、きっと味がしないのは私だけ。
肩を縮こませるように黙々と箸を進め、一番最初に食べ終え食器を片した。
おついちさんは自分がやると言ってたけど、兄弟の目が怖くて断った。
そして3人に会釈してから急いで2階に駆け上がる。今は自分の部屋であるドアを開け放ち、ゆっくりと閉めるとそれを背にズルズルと床に座り込んだ。
こわ、かった……
名も知れぬ恐怖に震えた数十分という長い時間。最後、私は自然に笑えていただろうか。笑顔は引きつってなかっただろうか。
それだけが心配で仕方ない。おついちさんには迷惑をかけないように、兄弟の目を常に気にしないといけない。少しでもおついちさんに害のあることをすれば…
『もういやだ……』
あの時握られた手が痛い。
思えばそこは傷口のあるところで、包帯に赤が滲んていた。隙間から覗くように見てみると、思った以上に酷くて部屋にある救急箱から包帯と消毒液を取り出してベッドに座る。
自分で何とかしなきゃ、
巻き方をよく見て包帯を外す。
じわりと浮き出てきた血を垂らす前に消毒したティッシュでふき取っていく。
痛いけど、大丈夫。これくらいやらなきゃダメだから…
次に包帯を取り出して適当な長さに切る。
それを先程見た巻き方で巻いていくと、不格好ではあるがそれなりの形にはなった。
緊張してたのか強ばっていた肩の力を抜き、ベッドに体を沈める。
鼻を掠めたおついちさんの匂いに、鼻頭がツーンっと痛くなった。
今夜、ここを出よう。
誰にも迷惑をかけないように
そしてお父さんの組織が悪用してたという薬を見つける。それを燃やして全て終わりにすればいい。
簡単。かんたん、だから
『こわい、な…』
震えた手を天井にかざす。
元々、無理矢理に連れてこられたんだ。いつかは逃げ出そうと考えていたし、それが早まっただけ。一日でも誰かの優しさに浸かっていられたのなら、もう思い残すことはないだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 377人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
北海ユキノコ(プロフ) - 続きを楽しみに待ってます！頑張って下さい！応援してます！ (2023年2月20日 17時) (
レス) id: cfe4c19063 (このIDを非表示/違反報告)
北海ユキノコ(プロフ) - いつも、ワクワクしながら読んでます！ (2023年2月20日 17時) (レス) @page41 id: cfe4c19063 (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - ばおばぶさん» コメントありがとうございます…！何度も…！！本当にありがとうございます。これから登場人物も増えていく予定ですので、お楽しみくださいませ！！ (2022年6月20日 0時) (レス) id: 670de1abda (このIDを非表示/違反報告)
。(プロフ) - konbu_3723さん» コメントありがとうございます…！とても嬉しいです…、リアルの方でバタついていたのもありそのお言葉で涙が出てしまいました。更新頑張ります。暑い日が続いてます。konbuさんもどうかお体に気をつけてください。 (2022年6月20日 0時) (レス) id: 670de1abda (このIDを非表示/違反報告)
ばおばぶ(プロフ) - 御三方にハマってから占ツクでこちらのお話を見つけて実は何度も見に来ていたので更新とても嬉しいです！！今後の展開も楽しみです(*´﹀`*) (2022年3月26日 2時) (レス) @page38 id: 656b6dd078 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：。 | 作者ホームページ：http:/http://commu.nosv.org/p/tensan819
作成日時：2019年3月7日 18時
