9話 １分だけなら ページ10
あの後、歌姫に家まで送ってもらったら六花が帰ってきていて無茶苦茶怒られた。
それからというもの、ラケルに見張られた。
「外に出たら六花に言うケル！」
でも金曜日は歌姫に会うために勝手に出かけようとした。
ラケルはずっと俺の後をつけてきていたからどうやってまこうか考えた。
「ラケル。ドーナッツ作ったんだけど、食べる？」
「食べるケル！」
椅子に座って美味しそうに食べている間、俺は寝ると嘘をついて自分の部屋に閉じこもった。
そして2階から用意した手綱を使って窓から降りて公園に向かった。
前と同じベンチで待っていると、歌姫はやってきて、俺を見るなり呆れた顔をした。
「なんでいるのよ。ラケルが見張ってたんじゃ……」
「まあまあ」
「あのねえ、もっと自分のこと、！？」
俺は歌姫の手を握った。
「……はぁ。なんで手触るの？」
「落ち着くから」
「離して」
「なんで？」
「人に見られたら大変でしょ。私、一応アイドルなんだから」
「人が見ていないとこならいいんだ」
「……それでも嫌」
あー、俺のことそういう対象として見てないんだ。
「1分だけならいい？」
「……1分だけよ」
「うん」
「もう1分経ったから」
歌姫は俺の手から離れた。
(あーあ。やっぱ3分にしとけばよかった)
「もう帰るわ」
「え？」
「特に話すこともないでしょ。それなら、1分だけ手をつなぐだけで十分じゃない」
「……ああ、そうだな」
「じゃあ」
「また来週」
歌姫が帰って行く背中を見届けてから、俺も家に帰った。裏庭に行き、手綱を使って2階まで登る。
部屋には誰もいなくて、鍵を開けてこの部屋を出て1階に行くと六花がいた。
「よく寝れた？」
「……うん。仮眠だけど」
仮眠だなんて嘘ついて申し訳ない。
次の日、立花は出かけていた。
ありすの元に行き、何やらお茶をするらしい。
そして俺はラケルに見張られている。
六花が帰って来てみんなで夕飯を食べていると、立花は言った。
「今度、ローズレディコンテストに参加するの」
バラを愛する最高のレディを決めるコンテストらしい。
「そういえば、王女はバラが好きだったな」
「まこぴーも同じこと言ってた！ 手がかりがあるといいなぁ」
手がかりねぇ。
「俺も行っていい？」
「駄目」
「杖使うならいいだろ？」
六花はよく考えた。
「はぁ。今回だけよ」
行けることになった。
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作者名：ちゃゆ | 作成日時：2022年11月25日 0時
