39話 軽く盗み聞き ページ40
レジーナと別れて四葉家に戻る前に、以前、歌姫と会っていたあの公園に向かった。
なんとなく足が向いてしまった。
公園に着いてベンチに座ろうと思ったら大貝中の制服を着た男子がひとりで座っていた。
「(他にベンチはないから座るところもないし、諦めて帰るか)」
公園に背中を向けて帰ろうとした時、「ごめんなさい。待った？」という声が聞こえた。
あまりにも歌姫に似ていたから振り向いて見たら、本当に歌姫がいた。
眼鏡をかけて、帽子を深く被っている。
撮影終わりだからもう帰っているかと思った。ていうか、なんで男と待ち合わせしてるんだよ。
「全然。来てくれてありがとう」
「……要件なら手短にお願いしたいわ。あまり人目につくわけにもいかないから」
「うん、わかってる」
運動部っぽい好青年で優しそうな男子だった。声が柔らかくて、男の俺まで少しうっとりしてしまう。
「俺、剣崎さんのこと気になってるんだよね」
「……悪いけどそういう話は……」
「うん、アイドルだからそういうの禁止だよね。
剣崎さん、前に俺が落とした生徒手帳拾って声かけてくれたでしょ？
アイドルって一般人には冷たくて、近寄りがたくて怖い印象だったんだけど、こんなに優しい人もいるんだなって、アイドルに対する印象が変わったんだよね。
それって剣崎さんのおかげなんだ。だから感謝してるし、そう思ったらいつの間にかずっと目で追ってた。
俺の気持ちに応えてくれなくていい。だから、これからも普通に話せたら嬉しいなー、なんて……」
嘘っぽ。
俺みたいな純粋じゃないやつからすると嘘っぽく聞こえる。
「ありがとう。そんな風に言われたことなかったから嬉しいわ。これからもよろしく」
「ありがとう。途中まで送ろうか？」
「車があるから。じゃあ」
「また月曜日に」
こうして二人の会話は終わった。
男子生徒は満足した顔で帰って行き、歌姫は車があるって言ってたのになぜかあのベンチに腰をおろしている。
ずっとうつむいているから気になってしまい、帰るつもりだったけど帰るのをやめて声をかけた。
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作者名：ちゃゆ | 作成日時：2022年11月25日 0時
