32話 しつこい女だ ページ33
どういたしまして、って言うのは照れくさい。
歌姫はずっと俺の目を見てくれているけど、恥ずかしいからすぐにでも目を逸らしたい。
でももったいない気もする。
「私のことよく見てるのね」
「よく見なくてもわかんだろ」//
「ふふっ。今なら、手触らせてあげてもいいけど」
「！」
触りたい、でもな……。
「遠慮しとくよ。もう寂しくないからな」
ここで触ったらもっと好きになる。
諦めたいのに諦められなくなるから遠慮しないとな。
「嘘」
歌姫は俺の顔をのぞくように見る。
「前も嘘ついてた。寂しいはずなのにどうして嘘をつくの？」
「！ 寂しくなんかない！」
「っ、わかりやすいのよ！ すぐ顔に出るんだから」
「だ、だったらなんだ。寂しかったらなんだよ！ 歌姫には関係ないだろ！」
「私だって！ 寂しいもん……」
歌姫の声はだんだん覇気がなくなった。
本当に寂しそうな顔でちょっと泣きそうだった。
「どんなに歌っても王女様が現れない。
その上、仕事では私情を挟んだわ。お客さんの気持ちを考えていなかったせいで演技に集中できなくて、いろんな人に迷惑をかけた。
でも、貴方が王女様探しをするから仕事に集中していいって言ってくれた。
そのおかげで胸がすっきりした。
感謝してるから、貴方の寂しさも取り除いてあげたいの」
「……それが、手を繋ぐこと？」
「したいって言ってたじゃない」
俺の寂しさは歌姫には取り除けない。
時間が解決してくれる、気持ちの問題だ。
歌姫が俺のことを好きになってくれるなら別だけど、そんなこと強要できもしないししたくもない。
「……ありがとうな」
好きな人に心配かけて、何してんだ俺。
「気持ちだけで十分だ。ほら、もう帰ろうぜ」
俺が立ち上がっても歌姫は立ち上がろうとしなかった。
「私は力になれないの？ そうやって、いつも話をそらす｣
「俺が求めるものを押しつけたくないんだよ」
「貴方が求めるものって何？」
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作者名：ちゃゆ | 作成日時：2022年11月25日 0時
