22話 先を越された ページ23
それから俺は、毎日海藤さんにつきっきりだった。
公園や海に行って写真を撮られた。
今日で一週間たつ。
「もうちょっと左に移動できますか？」
「ん」
「そこです！ もっとスカした顔してください！」
「ん？ 何？」
たまに意味わからないことを言われるけど、ちょっと楽しかった。
「休憩しましょう！」
海藤さんはお弁当を作ってきてくれた。
海で弁当食べることってないから、少し緊張した。
「どうですか？」
「美味い。めっちゃ美味い」
料理上手だ。
「この写真いいじゃん。海に向かってスカした顔してる写真」
「いいです！ もっと撮りましょう。明日の土曜日は空いてますか？」
明日は朝から、六花がカルタの試合だ。
「昼からなら」
「じゃあお昼すぎに、クローバータワー前で待ち合わせしましょう」
もうすぐ夕方か。
「……あ！ ごめん、俺行くとこあるから」
「わかりました！ 今日はありがとうございました！」
「おう」
急がないと、歌姫が待ってる。
公園に着くと歌姫はいなかった。
めちゃくちゃ急いできたのに、まだ来ていなかった。
あ、そういえば先週怒らせたんだった。
「はぁ」
来ないかな。
ベンチに座って待っていると、人影が見えた。
「歌姫！」
「しーっ。声大きい」
よかった。来てくれた。
手に触れようとすると、触らせてくれなかった。
「先週、なんで急に抱きしめてきたの？ 寂しいから？」
「……あんまり、覚えてない」
「え？」
「けど、なんか、抱きしめたくなった」//
恥ずかしいな。
「まだ怒ってたら、ごめん」
「……もういいわ」
「手触っていい？」
「……ん」
ゆっくり握った。
「好きな人いないのか？」
「王女様が一番好きだけど、マナも、六花も、ありすも好き」
「違う。恋愛だよ」
「……考えたこともないわ」
遠まわしに、俺のことも眼中にないって言われてるみたいだ。
「俺に抱きしめられた時、ドキッとしなかった？」
「……びっくりしたけど、そういう意味ではないと思う」
「こうして手を繋いでいても、ドキドキしない？」
「しない。ムズムズする」
またそれか。
「あ、でも、キュンとしたことはある」
「誰に？」
「同じクラスのサッカー部。重い荷物を持ってくれて、それがかっこよくてキュンとしたわ」
は？ いつの間にか先越された。
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作者名：ちゃゆ | 作成日時：2022年11月25日 0時
