10話 怒らせちった ページ11
次の金曜日
今日もラケルの目を盗んで公園に行くと、俺より先に歌姫が来ていた。
「今日は早いんだ」
隣に座って歌姫の手を握った。
「明後日、ローズなんちゃらコンテストってのに参加するんだって？」
「ええ」
「俺も行く」
「え？」
「六花が許してくれたんだ。楽しみだな」
「貴方、何をしでかすかわからないから不安なんだけど」
「は？ 何もしないぜ」
「わからないわ。王国でもいつもイベントがあるたびに問題を起こしていたじゃない」
「問題っていうか、盛り上げてあげてたんだろ」
「言い訳がましいわ」
既視感。前にも同じこと言われたような気がする。
「踊るんだろ？ 見ものだな」
「馬鹿にしてるでしょ」
「してない」
「できれば来ないでほしいわ」
「酷いな。そんな堅かったっけ。王女がいないとやけに頑なだな」
すると歌姫は怒ったのか、強めに手を離した。
「そういうこと言わないで」
「！」
悲しそうな声色に、少し申し訳なくなった。
謝ろうとした時には歌姫は公園を出て行ってしまっていた。
(コンテストで会った時に謝るか……)
少しからかっただけなのに、王女の話をすると短気になる。
それも可愛いんだけどなー。
・
コンテスト当日
俺は支給された松葉づえを片脇に添え、ありすの大きな車に乗せてもらうことになった。
6人乗りの車で、前にセバスチャンとありす、真ん中にマナと歌姫、後ろに俺と六花が座った。
金曜日のことがあったからか、歌姫は俺と目さえ合わせようとしなかった。
「ありがとう、ありす」
「とんでもないですわ。お友達のためですもの」
太っ腹な美人お嬢様だ。
「A君、足は大丈夫？」
「うん、大丈夫」
「勝手に外出て六花に怒られたって聞いたよ、怖かったでしょ」
マナは六花によく怒られるのかな。
「マーナー？」
「あはは」
俺の前に座っていた歌姫はマナと六花を見て楽しそうに笑っていた。
こんな顔するんだな、ってちょっと胸がしめつけられる気持ちになった。
会場に着くと、まだ人は少なかった。
だが、俺がセバスチャンと会話をしている間に、歌姫たち4人はある人物に出会っていた。
「五星麗奈様でございます。このバラ園の持ち主であり、ありすお嬢様の幼馴染です」
(五星、か。やけに上から目線なお嬢様だな)
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作者名：ちゃゆ | 作成日時：2022年11月25日 0時
