鬼になった青年の話【胡蝶しのぶ】

人間に ページ45

｢す、すげぇ…、お前強いんだな！｣


｢あははっ、どうも。
雪溶けてきたね。傷治ってるでしょ｣


｢本当…、凄い｣

｢ありがとうございます。
肋が折れていたので助かりました｣


｢完全には治ってないから
これ以上は動かない方がいい｣


｢……Aさん、人間に戻りませんか？｣


しのぶは真面目な顔をした。
いつものような笑顔は、今のしのぶにない。


｢薬、開発できたんです｣

｢！本当？｣


｢はい。
鬼舞辻が死ねばAさんも死にます。
その前に人間に戻ってほしいんです｣


｢戻っていいのかな｣


｢？｣


｢甘露寺や時透を傷つけたんだ。
鬼が人を襲ったことは事実でしょ？
だから約束では俺は死なないといけない｣


｢みんな貴方に戻ってきてほしいと思ってます｣


｢！｣


｢大丈夫ですよ｣


｢……そっか｣



俺は目を閉じて微笑んだ。
しのぶは俺に人間に戻る薬を投与した。



｢しのぶのことを、食べたかったよ｣

｢……約束しましたからね｣

｢！覚えてたんだ｣


｢覚えてますよ。
Aさんと約束したの初めてですし。

それに、ちょっと嬉しかったんです｣


｢？｣


｢私の身体は毒だから、Aさんに喰われれば貴方も私も死ぬでしょう？

2人で一緒にいられるという意味でもありますから｣


｢っ｣


俺と同じこと考えてたんだ。


｢しのぶ｣

｢はい？…！｣


ギュッと抱きしめた。

薬の効果が出てきたのか、体がスゥッと軽くなる。だんだんと八重歯がなくなり、肌の色が正常に戻った。


｢Aさん、暖かくなってきましたよ｣


しのぶも俺の背中に手を回した。
ずっとこうしていたい。

君のそばにいたい。


｢大好きだよ｣

｢……私も好きです。
貴方よりも好きだと思います｣


｢あの！｣

｢？｣


大きな声で叫ぶカナヲを見ると、なんだか怒っていた。


｢師範とイチャつかないでください｣


｢！｣//

｢なに嫉妬してるの？可愛いね｣


ニヤニヤしながら俺が言うと
カナヲはもっと怒った顔をした。


｢私は認めません｣


｢だぁぁぁぁ！！
よく分かんねぇけど鬼舞辻倒しに行くぞォ！！

体力が戻って暴れたい気分だぜ！！｣


｢！｣


｢そうだな。とりあえず討伐だ｣

｢カナヲも、ね？｣

｢はい…｣




俺たちはこの部屋を出た。

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