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" 思いもよらない " とはまさにこの事だと思った。
ガチャリと値段相応の重さをしたためたドアの開閉音とともに現れたのは、私の知っている、いくらか媒体で見たことのあったプライベート感の強いその人だった。
「…きょうもと、たいが、」
『へぇ俺のこと知ってんの、ジャニオタ？』
あっけらかんと話すその口ぶりは慣れてるようで、あぁこういう人なんだと思った。
ネット上、誌面上の彼はもう少し気高い存在だと私は思っていた。
どこか掴めなくて、ふわりとしていて、同じ人間なのにそうじゃないなんて絵空事のような考えを当て嵌めてもしっくりきてしまうような。
それこそ、人間の欲をあしらうような表情をして、生きていると。
ショックという言葉は少し違う、でも私の心にある程度の喪失感はあった。
でもそこまで胸に来なかったのは、私が目の前の人に抱いていた違和感を消しさればいいと分かったから。
深く被っていたフードを外して、肩にかけていたバッグを雑に机に置いたその人は、綺麗なブロンドの髪がくたりとしていて、少しだけくまがあった。
舞台が終わったばかりだからか、普段は柔らかそうな頬が引き締まっているところがやはり彼で、客席から見上げていた彼とは違ったけれど間違いはなかった。
だから、居心地が悪かった。
『で、名前は？』
「そっ、か」
『は？』
予想通りではなかった。
でも、私が捉えきれていなかった、雲のように薄靄がかかっていた所が今見ている人だと思えば飲み込めた。
今ここにいるのは、体の関係だけを求めた男女であって、アイドルとファンじゃない。
ただ名前と顔が同じだけ、私がいつも見ているアイドルの彼はいない。
そう思えば、いくらでも堕ちていける気がした。
そう思い込んで自分を押し込んで、私は立ち上がって背伸びをして、その形のいい唇にキスをした。
私のよりタールの強い煙草の味がしてドキッとしたけれど、自分から交わらせた舌で打ち消した。
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恍(プロフ) - 🦇さん» ご指摘ありがとうございます。追加しました！ (2022年1月30日 1時) (
レス) id: 7393041891 (このIDを非表示/違反報告)
🦇 - 18がないんですけど…こちこち (2022年1月30日 1時) (レス) id: eced2265dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：恍 | 作成日時：2022年1月18日 0時
