卒業 《2》 ページ6
高台にある私の高校からは、
海とともにSTORMSの本拠地である倉庫がよく見えた。
栗ちゃんと走りながら、
高校から倉庫まで 彼が運転するバイクで一緒に駆け抜けたことを思い出す。
バイクでは一瞬な気がした道のりが、走ると結構な距離で。
見えてくる頃には、脇腹が痛くなっていた。
倉庫の前には、立ちはだかるように黒い群れ。
その正体は、
漆黒の龍が背中に描かれた黒い革ジャンを着た男の人たち。
その革ジャンはSTORMSの一員の証であり、一番の正装だと誰かが言っていた気がする。
栗「ねぇ、A…前見えると思う？」
「無理な気がする。」
実際、背伸びをしてみても。
見えるのは彼らが背中に背負っている黒い龍だけ。
「仕方ないよ、STORMSの大事な日だもん」
と最前列で観たかったという思いを抑えきれず
苦笑いで言うと。
『あれ…姫君とくれはさん？』
と、私たちの会話を聞いて振り向いた男の子が目を丸くした。
確か名前は…手塚くん。
「手塚くん、もう引き継ぎって始まってる？」
手「あっ…自分もよく分からないんすけど…」
「だよね、こんな人だし。」
栗「あの、Aだけでも近くに行けたりしない？」
「いいよ、私はここで。」
手「そういう訳にはいきません！なんとかしなかったら青龍にぶっ飛ばされますから…
それに名前覚えてくれてたなんて…！感激っす！」
「な、名前を覚えるのは得意なんだよね…」
独特の雰囲気を彼の大声が崩したらしく。
黒い龍が姿を消して、代わりにみんながこちらを振り向く。
中にはうるせぇぞ、と言わんばかりの形相をした人もいるものだから。
慣れている私でも流石に怯んだ。
そんな人も、私がいると気がついた途端に左右に散って
腰を低くして花道を作っていく。
しばらくすると、両側が黒に染まった一本の道ができた。
「え、あ、あの…みんなの式だし、私はここで見てるから、通り道なんて作らなくても…」
智「…A？」
遠慮しているわたしの耳に、奥の方から愛おしい声が届く。
「あ…、智くん」
智「何してんの、早くきて。」
声がする道の先を見ると、
久しぶりに見る青い特攻服に身を包んでいる、
青龍こと私が愛するたった1人の男、大野智がいた。
「栗ちゃんも、行こう」
栗「えっ、うちも！？」
その声に導かれて、栗ちゃんの手を強引に掴んで。
私は歩き出していた。
彼の声には、否と言わせない魔力があるとつくづく思う。
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作者名：KIRA | 作成日時：2018年11月26日 18時
