柳生:1人では ページ1
ふと外を見ると、既に日がかなり暮れていた。運動部の掛け声もまばらになり、教室の中にはほんのり芥子色の光が差し込んでいる。課題を終わらせて帰ろうと思っていたら、下校が近づいていたようだ。
手元の課題はあと少しで終わるとこまで来ている。最終下校時刻に間に合うかな、と思いつつシャープペンシルを握り直そうとした時、目の前のノートが視界から消えた。驚きに顔を上げると、見慣れた高身長に光に反射して見えない眼鏡の男。
「勉学に勤しむのも宜しいですが、程々にして帰りますよ」
唖然とした私から筆記用具を取ると手際よく仕舞い始める。慌てて荷物を片付け鞄を持ち、教室を出ていく彼の後ろを追う。どうしてここに居るのか、疑問に思ったのが伝わったのか、彼は口を開く。
「他の方から聞いたのです。偶然でしたがね…残るなら、声をかけてください。一人で帰らせる訳には行きません」
紳士として当然のことです、と言う彼を見て思わず紳士だからなのか、と萎れてしまう。彼は常に紳士だから、なんて考えてしまう。
「何か勘違いしているようですが」
唐突に立ち止まったかと思うと、私に目線を合わせながら言葉を紡いだ。
「私は貴女だから、ここまで気にかけているのです。察したまえ」
刹那、額に口付けを落とされる。思わずあたふたと慌てていると、彼はほんのり意地悪そうな笑みを浮かべ私の手を引いた。
「さぁ、帰りますよ」
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作者名:都築心太 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sapm_hmp/
作成日時:2020年1月13日 1時