俺が死にたくなった日【赤葦京治】 (ページ2)

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今年は春が短すぎた。長い長い冬が終わったと思ったら途端慌てて半袖を押入れのボックスから取り出すほどに。

「あっつ」

誰に対してでもない小さな呟きは空に消えて、飲み込まれるよう

「あっちぃいいい！」

の木兎さんの声に掻き消された。

「大声出さないでください、むさ苦しい」

「声の大きさって暑さに関係なくね！！？」

「木兎さん、こういうものは気から入るものです」

先日校門前のサクラが満開から葉桜に移り変わったばかりの5月。

体感ではもう8月の暑さだ。

チームの雰囲気はこの異常気象に負けじと上々である。幸い木兎さんも今日は今の所しょぼくれモードに入っていない。心なしか調子も良いように見え、鼻歌までしだす始末。

これはこれはなんかうざいな。

「機嫌、良いですね」

「今日はこの後楽しみなことがあってな！！！！」

「そうですか」

「何かって聞いて！」

「…何が楽しみなんすか」

「Aと、デートなんだよ」

文字化したら語尾にハートでもつきそうなほど気色の悪い声で木兎さんは言った。

吉良Aさん。

木兎さんの彼女であるAさんは生徒会やらボランティアやらやっているようで。

これだけでも尊敬するのに、木兎さんの彼女なんて大変に決まっている。

だけど

俺は彼女の笑い方も尊敬していた。

あの、作り笑いの上手さを。

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