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ドアの方にふと目をやると、
見覚えのある人影が店内に入ってくる。
仕事のし過ぎかななんて目を擦ってまたパソコンに目を向け直す。
「カフェラテ２つ」
その声があまりに懐かしい記憶を蘇らせるから、振り向くと
そこには樹がいた。
２つってことは誰かと飲むのかなとか、誰なんだろうとか色々な思いが駆け巡る。
「ちょうどAのも出来てたから貰ってきちゃったよ」
「あ、ありがとう..」
ぎこちない声に驚く北斗は異変に気付きつつも何も聞いてはこなかった。
「仕事ちょっとだけ終わらせちゃうね？」
なんて声をかけて私はまたパソコンに向かう。
「俺も資料確認したりするね」
お互い仕事に集中する。
いつもならこんな沈黙の時間すら心地良い筈なのに、今は違う。
背中に意識が集中してしまう。
「Aをこんなに無理させる上司むかつく」
「なんで？」
「こんな悲しい顔して仕事してるA見たくない」
バレちゃってるかななんて焦ってしまう。
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どのくらいたった頃だろうか、頼んだカフェラテはぬるくなって肩が痛くなってきた頃
「待った？？」
なんて可愛い声が聞こえた。
それに反応する樹の声。
どことなくあどけない彼女の声が頭に響いて
繰り返す。
ああ、あの時の子かなんて。
私から樹を奪ったあの子か、なんて。
「A？大丈夫？」
「大丈夫、北斗帰ろ？」
なんて曇った顔で手を握って北斗に訴える。
これ以上この場に居たら何かが壊れる気がした
手を握り返してくれて、空いてる手で頭を撫でてくれる。
「帰ろっか、A」
優しいその笑顔に何故か泣きたくなった。
きっと私の気持ちを察知してくれてるんだろうな、どこまで優しくて私を想ってくれている人なんだろうかと思った。
カウンターにトレーごと返して手を引かれて店を出る。
「車取ってくるからここで待ってて？」
走って先を急ぐ北斗の背中に心のどこかが暖かくなった。
店にいたくないのを察知してくれたのか、たまたまなのかは分からない。
けどそれに助けられたのは言うまでもなかった。
そんな私たちの後ろ姿を樹が見ているなんてこの時は知る由も無かった。
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作者名：みりん | 作成日時：2020年12月5日 3時
