『生きる世界が違う』 ページ44
side：芥川
数奇な夜だった。マフィアに入り、様々な仕事を熟してきたが、今日のようなことは初めてだった。
『友達になってほしい！』
あの女に言われた言葉が、頭の中で反復する。握られていた手には、未だ体温が残っていた。
下らないと一蹴すべき問いに好きにしろと答えたこと。
マフィアの狗として、彼奴等は皆殺 しにすべき存在のはずなのに、何もせずに帰路に着いたこと。
普段の僕からは有り得ないことばかりだ。あの女のせいだろうか。
「小泉A…」
渡された名刺に記された名を口に出せば、あの女に幾度も向けられた笑顔が想起する。
いずれにせよ、今回のことは首領には報告しなければならない。
織田作之助、アンドレ・ジイドの生存。奴等二人が所属する霊能事務所。そして…。
「芥川、参りました」
「入り給え」
「失礼します。首領」
いつも通りに仕事を済ませたことを報告する。
「それから…」
「それから？何かあったのかい」
「っ…否、何でもありません、失礼します」
何故だ。
首領への報告は義務だ。僕がしたことは立派な裏切り行為に捉えられる。今後、脅威に成りうる勢力は報告ししなければならない。
なのに、あの女…小泉Aの存在を知らせたくないと思った。
首領に、彼奴の事を伝え「殺 せ」と命令されたらと思うと、酷く胸がざわついた。殺 すことなど日常だというのに。
普段の己からは想像もつかぬ行動ばかりで、無性に苛立つ。
「何なのだ、これは…！」
感じたことのない、正体の分からない感情を持て余すも、発散する方法も持たず、自分の中で循環させるしかない。
また、あの女に会えばこの感情が何か分かるのだろうか。
そもそも、おかしな女だった。
僕に恐れもせず近づき、手を繋ぐばかりか、黒獣を可愛い等と言い、悪食である僕の異能を恐れるどころか撫でた。
誰からも卑しく、疎まれ、恐れられるポートマフィアの狗に対し、そのことを知りながらもそういった感情を一切向けてこない。
闇を生きる僕に、光そのものの様なあの女はあまりにも眩しいー。
『…生きる世界が違う、か』
自嘲するように笑えば、名刺をしまった胸元が仄かに熱を感じた気がした。
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銀狼(プロフ) - ゾッとして怖いって思っちゃうけど次のページの手が止まらない！2周目！ (2019年12月2日 20時) (
レス) id: fe6437d156 (このIDを非表示/違反報告)
泉桃花クラスタ - すごく面白くて、毎日楽しみにしています。更新頑張ってくださいね！楽しみにしています! (2019年3月30日 17時) (レス) id: 1a879c682f (このIDを非表示/違反報告)
カナネ - はじめまして、いつも読ませて貰ってますm(__)m 今また始めから読み返していて…間違えてたらすみません！コトリバコ5に誤字があったような気がします(>_<) (2018年3月22日 15時) (レス) id: 2f304636ee (このIDを非表示/違反報告)
amato(プロフ) - 猫勇者(ヒナっち)さん» 怖いと思って頂けたら書いた甲斐がありますね＾＾ありがとうございます (2017年8月21日 17時) (レス) id: 6e722ca549 (このIDを非表示/違反報告)
猫勇者(ヒナっち) - あ、更新頑張ってください (2017年8月21日 12時) (レス) id: 3b5a43403c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：amato | 作成日時：2017年7月23日 16時
