「寄り道なんて、もう絶対しない…!」 ページ29
「おぉーい!」
川から引き上げてしまった自 殺志願者と対峙していると、土手の方から声が聞こえた。
「おー、国木田君ご苦労様」
国木田という男に手を振ったのは、私が警戒して止まない彼。ということは、彼も裏の人間…?
彼は自分の同僚らしい国木田という人に奢ってもらおうと白虎君に提案した。
「君、名前は?」
「中島…敦ですけど」
白虎君は中島君というらしい。
何が食べたいかと聞かれた中島君はお茶漬けを所望した。パンの耳よりずっと上等なものだけど、他にもっと何かなかったのかな。…いや、人の好物にとやかく言うのは野暮だ。私もいつぞや、空腹のあまり「揚げ出し豆腐…」と言って目覚めたときがあったじゃないか。
「人の金で勝手に太っ腹になるな、太宰!」
「太宰?」
「あぁ…」
彼が、一瞬私に視線を向けた。
「私の名前だよ。太宰、太宰治だ」
夕日をバックに名乗った彼は、腹が立つほどの美形でした。チクショウ。
つーか、人のお金なのに、図々しいな。国木田さんもよく、怒鳴るだけで許しているものだ。
私なら、身包み剥いででも自分で払わせるのに。
「話は纏まったみたいで、よかったね敦君。沢山奢ってもらいなさいな。じゃ、私は帰るね」
「あ、ありがとうございました!」
「待ちたまえ」
なんだよ、気分よくお家に帰ろうとした私を呼び止めやがって。
「君も来るといい、国木田君が奢ってくれるよ」
「は?いや、私は」
「…来るんだ」
「っ!」
恐い‥‥。
体中の毛が逆立って、鳥肌が立つ。
有無を言わせない威圧感。
嫌な汗が背中を伝った。
「わ、…わかり、ました」
「うふふ、君とゆっくり話がしたかったのだよ。あぁ、そうだ君の名前をまだ聞いていなかったね。教えてくれるかい?」
「っ…こい、ずみ…小泉、Aです」
「よろしくね、Aちゃん」
何をしている唐変木、早く来い!と遠くで国木田さんが叫ぶ声が聞こえた。
あれ、中島君と国木田さんはいつの間にあんなに離れていたのだろう。
気づけば、河原には私と彼しかいない。
「寄り道なんて、するんじゃなかった…」
涙交じりの私のつぶやきは、夕焼けに吸い込まれたように、誰にも届くことはなかった。
「今日の夕飯はお兄ちゃん作のカレーなので帰らせてください」→←「川に還してあげようかと…」
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銀狼(プロフ) - ゾッとして怖いって思っちゃうけど次のページの手が止まらない!2周目! (2019年12月2日 20時) (レス) id: fe6437d156 (このIDを非表示/違反報告)
泉桃花クラスタ - すごく面白くて、毎日楽しみにしています。更新頑張ってくださいね!楽しみにしています! (2019年3月30日 17時) (レス) id: 1a879c682f (このIDを非表示/違反報告)
カナネ - はじめまして、いつも読ませて貰ってますm(__)m 今また始めから読み返していて…間違えてたらすみません!コトリバコ5に誤字があったような気がします(>_<) (2018年3月22日 15時) (レス) id: 2f304636ee (このIDを非表示/違反報告)
amato(プロフ) - 猫勇者(ヒナっち)さん» 怖いと思って頂けたら書いた甲斐がありますね^^ありがとうございます (2017年8月21日 17時) (レス) id: 6e722ca549 (このIDを非表示/違反報告)
猫勇者(ヒナっち) - あ、更新頑張ってください (2017年8月21日 12時) (レス) id: 3b5a43403c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:amato | 作成日時:2017年7月23日 16時