10 ページ11
「じゃ、帰るかA」
そう言い放った俺は、この女の手を強引にでも引いて帰るつもりだった。
それはうっしーをからかう、そのつもりで。
しかし伸ばした右手は、標的を捕らえられず空を切るだけで。
俺の手から逃れた彼女の華奢な腕は、俺とは正反対の方向に伸ばされる。同時に、行き場を無くした俺の手は宙をさまよった。
「うっしー」
一心不乱に幼馴染の名を呼ぶAの手には、気づけば水筒が握られていた。
「水筒……忘れたんでしょ？ 今頃取りに来るなんて、遅すぎ」
さっきの俺とうっしーのやりとりなんて無かったように、大きめの水筒を両手で抱えて差し出した。
あれ、うっしーは何を忘れたかなんて言っていないはず。それなのに……
「お、おうさんきゅ」
「じゃ、部活頑張って」
文章化すれば淡々として見えるかもしれないそれは、明らかに先程の空気とは変わっていて。どこか甘酸っぱい、まるで少女漫画の様な空気に包まれている。
あー、胸糞わりぃ。反吐が出そう。
「じゃ、キヨ帰ろ」
今更申し訳なさそうにこっち見て言うなよくっそ。
「じゃあうっしー、先帰ってるね」
あぁ、もうほんと
「また今夜ラインする」
とっくに気づいてんだよ……
ほんとは、最初からわかってた。
この
今朝の出来事も。
ちょっと格好つけて言った言葉は、本音に見せかけての
でも……今思えば、あれは咄嗟に出たただの本心で。
さっき強引に引こうとした彼女の腕も、ただうっしーをからかいたかっただけじゃなく。
あの男に、多少なりとも危機感を与えるためであり
あの女に、多少なりとも俺を意識させるためであり
そして、空虚に映った牛沢の名を呼ぶAの姿もきっと＿＿。
「(もう、とっくに堕ちてんだろうな)」
一目惚れっていう言葉自体、好きじゃない。それは、外見だけで判断し、その人の本質を見ていないんじゃないかって思うから。
だがそれは、今の俺が言ったところで説得力が無さすぎるだろう。でも、俺の原因は彼女の容姿だけじゃない。
どこか、惹かれてしまう。
今まで一度たりとも動かなかったナニカが、音を立てて深淵へ落ちていく気がした。
(※ROM専垢で更新したら、作者のところコラボ作品みたいになってしまいました
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 129人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琥珀糖。(プロフ) - ららさん» 温かいコメントありがとうございます！ よかったです、、頑張ります！ (2020年3月1日 17時) (
レス) id: 0adfd00f15 (このIDを非表示/違反報告)
らら - やばいです、！きゅんきゅんします！頑張って下さい応援してます！ (2020年2月18日 23時) (レス) id: 55f78e88a7 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀糖。(プロフ) - まめさん» 閲覧ありがとうございます。嬉しい限りです、、！ 頑張らせていただきます！ (2020年1月20日 18時) (レス) id: 0adfd00f15 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀糖。(プロフ) - ゆなさん» そう言っていただけるなら本望です……！嬉しすぎました、、ありがとうございます。 (2020年1月20日 18時) (レス) id: 0adfd00f15 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - 初めて読みましたが、少ししか読んでないのにハマってしまいました^ ^ (2020年1月20日 12時) (レス) id: 2a8b718fbe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：琥珀糖。 | 作成日時：2020年1月16日 18時
