_二十九訓 ページ30
.
「新郎 高杉晋助」
そう呼ばれた紫髪の包帯を左目に覆う男。その男の腕には小柄な女性の華奢な腕が力なく通っていた。
ついさっき、バージンロードを歩いてきて初めて顔を合わせた二人。
「あなたはここにいる新婦 狗神千和 を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し敬い、いつくしむことを誓いますか?」
一様の式。誓うと心にもないことを言う高杉に続いて千和の名前が呼ばれ同様に牧師の言葉に続いて多少の間があったが誓った。
「では、誓のキスを」
会場の人間には聞こえない程度の小さな舌打ちをして千和を引き寄せる。
観客は千和の父親である男。そしてその仲の良い親戚、鬼兵隊幹部幹部、一部の隊士のみ。
一様両者とも名高い指名手配犯な為、小さな結婚式場で行っているのだ。そのため人数も限られている。
「キィイイ!晋助様ァ……!」
「また子、落ち着くでござる」
「だってぇえ!!」
そんなことを目で訴えながら会話をしていると、高杉と千和との距離が段々と近づいて、相手の吐息がかる程になった時だ。
大きな音を立てて開いた扉。また子は思わず驚いて声を出してしまい、口を手で覆った。
「おや…随分と派手にやっているじゃないか。だが人は少ないな、席が余ってる」
「……ッ、誰だ、貴様!!」
両手にガタイのいい男を左手で引きずり、中へ堂々と進んでいく女。よく見ると男は白目を向いて口から泡を吹いている。そんな女を見て男もゴクリと喉を鳴らした。
「補佐貴様!どうやってここに…!!」
「へそ出し娘、あれで私防止の警備か?随分と舐められていたものだな」
「なッ!」
流石と言うほど神威が見込んだ女だ。鬼兵隊の隊士であろう男でも屁でもない。
Aは周りを見回す。高杉を見て目を光らせ、静かに微笑み姿勢を正した。
「お初にお目にかかります。ご両親方。春雨第七師団団長補佐、そして鬼兵隊総督 高杉晋助の姉のAです」
以後お見知りおきを。そう言いながら大きな番傘を肩に担ぎ直した。
149人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
水渚桃華 - 七瀬未来さんへ まだ少ししか読んでないですがこの作品面白いです。更新待ってます。 (2020年2月20日 17時) (レス) id: 3a85905bbd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なな | 作成日時:2020年2月18日 19時