ねぇ、いいんちょー。【桃】

ねぇ ２２ ページ23

貴方side



貴「どうしたの？さとみく…」



と言っていた瞬間に目の前が真っ暗になった。




暖かくて、甘い彼の匂い。



いま、私は





さとみくんに抱きしめられている。





貴「…っやだな。また何かの冗談？」



さ「いいんちょー。」



貴「私、いっつも恥ずかしくなっちゃうんだからね」



さ「…いいんちょー」


貴「……さとみくん、やめてよ……」



そう言いながら私は泣いていた。



左の頬がヒリヒリする。



彼の前で泣いてしまっている。



私は彼女でもないのに。





そうだ。



私は彼女でもなんでもない。




それは本気でさとみくんに恋をしている人に失礼だ。




だから、先輩たちも……



そこまで思考をめぐらせると、


今の状況がだいぶまずいことに気づいた。




貴「…あの、さとみくん。」



さ「なーに、いいんちょー」



貴「……離してもらってもいいかな？」



と言うと





さ「んー、俺が抱きしめてたいの。」




と言うので、





貴「だって、こんなのおかしいよ、私達付き合ってもないのに、」




さ「付き合ってなきゃこーゆー事しちゃいけないの？」




貴「だって、」





今も誰かがさとみくんのことを思っているかもしれない。


さとみくんを思って


喜んだり、



悲しんだり、



嫉妬したり、



幸せになってたりする人がいるかもしれない。





そんな恋心を邪魔するなんて、私は卑怯者だ。





貴「だって、だって！！！
誰かの恋心を、邪魔するなんて、私には出来ない…」





さ「誰かって？」





貴「それは……」




もちろん私が言っているのは先程の先輩たちの事だが、無闇にさとみくんに言ってしまうと、



彼のことだ。



きっと、心配してくれるに違いない。



またそれで、私は先輩たちに呼び出される。



元々私が悪いのだから、



私が我慢しなければならない。




貴「…それは言えない。」



そう言うとさとみくんは




私の頬に手を添えた。



少し痛くて顔をゆがめてしまった。




すると彼は



さ「ごめん。痛かったね…。
でもね、いいんちょー。俺、いいんちょーが帰ってきた時から分かってた。」


貴「……ぇ？」





さ「いいんちょーが今何されてきたか。
いいんちょーが今どんな気持ちか。
いいんちょーが今泣きたいってことも。」



そう言うと彼はより一層力を込めて私を抱きしめてきた。





私は彼の言うことに涙を流すしかなかった。

ねぇ ２３→←ねぇ ２１

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す