永遠さえも、まだ足りない ページ32
ふわり、と春の優しい風がワンピースの裾を揺らした。風に背中を押されるように小さな背中が、自分の名前を優しく呼んで両手を広げる人の元へと駆け出していく。
「パパ!」
勢いよく、その胸に飛び込んで眩しいほどの笑顔を見せる愛娘に向かって、勇人は心底愛おしいという感情がだだ漏れの笑顔で話しかける。小さな背中を追いかけるようにして小走りで向かうと、「危ないから、走らんで」と優しく注意される。その言いつけを守ってその歩みをゆっくりに変えた。
「パパ!あのね!」と話したいことが沢山あるのだとばかりにその服をぐいぐいと引っ張る娘に苦笑いを一つ落とす。
『こーら、ことちゃん。その服パパのお気に入りのやつなんだから伸びちゃったらパパ泣いちゃうよ』
「!パパないちゃうの?」
「伸びたら泣いちゃうかもな〜〜」
「え、え〜〜!」
ふざけて泣き真似をする勇人に、大袈裟なほど驚く琴美。「どうしよう!」と父親に向かって心底困ったような目線を向ける琴美に、まあ服が伸びたところでこの父親は、娘を叱ることなんてしないだろうけど、と一人笑みを浮かべる。
そんなやりとりを見守っていると、勇人の後ろに置かれていた日除けの下げられたベビーカーから泣き声が上がる。
「!!アキくんおきた!?」
『起きたみたいだね』
ベビーカーの目の前に駆け寄って、勇人が日除けを上げてくれるのを胸の前で祈るように手を組み今か今かと待つ琴美。勇人はその頭をひと撫でして、ゆっくりと日除けを上げる。
「う、うわああぁん!!」
「どした〜、アキくん寝起きからご機嫌斜めやね〜〜?」
四肢をジタバタとさせて、身体全体で自分の感情を表現する長男を勇人が抱き上げて、トントン、とその背中を叩いてやれば幾分かは落ち着いたようで。甘えたように勇人の胸に頬をペトリとくっつけている。
あら、そんなにすぐ泣き止むなんて珍しい…なんて思った途端にもう一度ぐずり出した暁人にやっぱり…と苦笑いを浮かべる。さすが魔の2歳児。何をするにも一筋縄ではいかない。さて、パパはどうするかな?なんて様子を見守ろうと、静観を貫く。
「アキくん!アキくん!」
「?」
琴美が小さな手を弟に向けて伸ばす。勇人がそれを察して、大きな身体を小さく屈めて、琴美と暁人の目線を合うようにしてあげる。
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さゆり(プロフ) - ありがとうございます!完結おめでとうございます!終わってほしくないですが😂これからも見返します🎵 (3月13日 23時) (レス) @page33 id: c3a1464b6f (このIDを非表示/違反報告)
みゆち - 淑女の憂鬱のランキング探してもないんですけど、抜けたんですか? (2022年5月17日 18時) (レス) id: bad0598a3b (このIDを非表示/違反報告)
りこ - この作品は何回読んじゃうくらい大好きです❗️最新大変だと思いますが、頑張ってください。応援してます (2022年3月27日 22時) (レス) id: 2a6ba116e5 (このIDを非表示/違反報告)
みゆち - 携帯では小説読めないんですか? (2022年1月6日 19時) (レス) id: fcfb923edf (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - 初めまして。勉強の息抜きに見始めたらハマってしまいました!「ず」からはじまるアカウントでフォローさせていただきました。よろしくお願いします! (2021年12月26日 14時) (レス) @page25 id: f3167f841a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハナ | 作成日時:2021年2月1日 18時