（続）指に触れる愛が、３

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自分の進みたい方向をしっかりと見定めて、一音一音琴の弦をはじくように、一歩一歩自分の足で自分の人生を丁寧に歩んでいってほしい。

そんな、願いを込めて。



『はじめまして、琴美ちゃん…ずっと待ってたよ』
「パパとママやで〜これからよろしくなあ、琴美」



2021年8月13日 午後2時40分に誕生した、愛しい我が子は『琴美』と名付けられた。



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出産の後、部屋に戻ったAは意識を失うかのようにして眠りについた。陣痛が始まってからほぼ丸一日まともな睡眠が取れなかったからなあ、とその頭をそっと撫でる。



「…ふは、気持ちよさそうに寝とる」



本当に、女は強いな、とつくづく思った。出産の痛みはA曰く『鼻からスイカじゃなくて2トントラックに轢かれた感じ』だったそう。我慢強いAが泣き叫ぶほどの痛みなんて想像するだけでゾッとする。


だけど、そのあとに『でも琴美の顔見たら、そんな痛みも忘れちゃうくらい幸せだった』って。やっぱり、女って、母って凄い。俺たち男は一生女性には勝てないと思ったし、一生頭が上がらないんだろうな。



「……お疲れさま」



本当に、お疲れさま。これからまた大変だろうけど、ひとまずゆっくり休んでくれ。



ちらりと腕時計を見るともう時間が迫っている。なにせこれからドームに向かわなくてはいけない。本当はこのまま起きるまで付き添いたいけど、Aが起きた時に居たら『何でまだいるの』と怒られそうだし。


Aには手紙を残して、琴美の顔を見て帰ろう。そうすれば何十倍もエネルギーが貰える気がする。



「……俺、頑張るよ」




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Aへ
気持ちよさそうに寝てるから、起こさずに試合に向かうことにします。いろいろと、お疲れさま。
伝えたいことは山ほどあるんだけど、とりあえず、１０ヶ月間、お腹の中で琴美のことを守って、育ててくれてありがとう。琴美に会わせてくれてありがとう。
今日までAは頑張ってくれたから、つぎは俺の番やな。とりあえず、今日の試合で頑張るから、見ててな。
また明日練習前に病院寄ります。ゆっくり休んで！
勇人

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