花のように笑う君 ページ14
『……旅行行きたかったなあ……』
リビングで寛いでいると、そんなAの独り言が聞こえてきた。
ふとAに目を向けると、ケータイでなにかを見ている様子。俺が自分を見ていることに気づいたのか、その画面をこちらに見せてくれる。そこには数年前の北海道旅行のときの写真が写っていた。
「懐かしいな、それ」
『もうこれ4年前だよー』
「国内旅行って、それしか行ったことないよなあ。そういえば」
『ね。次の年はオーストラリアだったし、その次はハワイだったし…去年は行けなかったしね』
そうやったなあ。去年、本当はコロナが落ち着いていたら温泉地にでも行こうかとふたりで話していたんだけど、結局叶わず。今年も夏を前にようやく一時期よりは落ち着いてきたけど、俺はシーズン中でオリンピックを目前に控えていて、Aは妊娠中。とてもじゃないけど行ける状況ではなくて。
『……最後にふたりで旅行、したかったんだけどなあ』
次旅行に行くとしたら、もうふたりきりではない。それは、嬉しいことではあるけど、どこか切ない気持ちになるのはなぜだろうか。
「……よし、」
『?』
「ちょっと出かけるか、車出して」
『…え?』
「旅行は無理やけどさ、ふたりでちょっとでも思い出作りたいやん」
『……いいの?』
「俺が言い出したんやからええに決まっとるやん」
そうと決まれば準備!と立ち上がって動き出す俺を見上げてAが、
『ありがとう』
と、まるで花のように、俺の大好きな笑顔で可愛く笑った。
.
.
.
『わ〜っ、海!』
「久々に来たなあ」
『まだ冷たいかな?』
「うーん、まだちょっと冷たいんちゃう?」
あの後、海が見たいというAの希望を聞いて、1時間ほど車を走らせて神奈川までやって来た。
砂が入って気持ち悪い〜、と砂浜を歩いていた時点でサンダルを脱いで裸足になっていたAが波打ち際まで進むと、パシャっとその足に水がかかる。
『…あっでもそんなに冷たくはない』
「…ほんまや、ぬるくもないけど」
『もう7月だもんね〜』
楽しそうに波と戯れるAをそっと見守る。平和な光景で、心が休まる。
『気持ちいい〜』
「な〜」
『波の音聴くとさ、心が穏やか〜になるよね』
「あぁ、なんか分かる」
お腹を撫でながら柔らかく笑うAに、少しでもストレス発散になったかな、とホッと胸を撫で下ろした。
『べびちゃん聞こえる〜?これが波の音だよ〜』
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さゆり(プロフ) - ありがとうございます!完結おめでとうございます!終わってほしくないですが😂これからも見返します🎵 (3月13日 23時) (レス) @page33 id: c3a1464b6f (このIDを非表示/違反報告)
みゆち - 淑女の憂鬱のランキング探してもないんですけど、抜けたんですか? (2022年5月17日 18時) (レス) id: bad0598a3b (このIDを非表示/違反報告)
りこ - この作品は何回読んじゃうくらい大好きです❗️最新大変だと思いますが、頑張ってください。応援してます (2022年3月27日 22時) (レス) id: 2a6ba116e5 (このIDを非表示/違反報告)
みゆち - 携帯では小説読めないんですか? (2022年1月6日 19時) (レス) id: fcfb923edf (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - 初めまして。勉強の息抜きに見始めたらハマってしまいました!「ず」からはじまるアカウントでフォローさせていただきました。よろしくお願いします! (2021年12月26日 14時) (レス) @page25 id: f3167f841a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハナ | 作成日時:2021年2月1日 18時