檸檬日和。《短編集》 (ページ3)

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センチメートル。《紫》ページ3

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｢いってきまぁす！｣

『はい、行ってらっしゃい』

｢いってきまぁす！｣

『うん、気を付けてね』

小学生の娘には少し、不思議な所がある。

あるときはどこかを見て笑っていたり、

あるときはひとりで喋ってたり。

" いってきます "

" ただいま "

" おはよう "

娘は何故か挨拶を二回するのだ。

少し抜けてる不思議な子。

亡き夫にそっくりだ。

｢崇裕さん、あの子この調子だと皆勤賞なの。お友達いっぱい出来てるみたいよ。｣

家事の合間に写真に話しかける日々。

彼は娘が産まれてすぐに亡くなった。

1度赤ちゃんを抱いただけで、亡くなってしまった。

｢ただいまぁ～！｣

『あぁ、おかえり』

｢ただいま！｣

今日も元気に帰宅した娘は、本当に何気なく呟いた。

｢ママ、きょう、“けっこんしたひ”なんでしょ？｣

『…え、？』

いつか私はそんな事を教えたのだろうか。

いや、そんな事は、無いはず。

｢ママ？｣

『…なんで、知ってるの…？』

すると娘は当たり前とでも言うように、私に教えてくれた。

｢だって、パパがいってたもん。｣

『パパ…』

私は視線を娘から彼の写真へと移した。

そう、彼は娘が産まれてすぐに亡くなった。

そんなはずはない。

『…どういうこと…、』

｢パパは、ここにいるから。｣

あぁ、やっと分かった。

何も無い空間を見上げる娘の目には、

きっとパパがいる。

崇裕さんが映っているんだ。

｢ママしらないの？パパね、いっつもおかえりー！って頭よしよししてくれるんだよ！｣

そうか、２回目の挨拶はパパに向けて言っていたんだ。

なんだか訳の分からない感情で涙が滲む。

｢それで、ねるまえにいっつもおはなしするんだけど、きのうね？あしたは、パパとママがけっこんしたひ。っておしえてくれた。｣

『…なんで教えてくれたんだろうね』

娘の頭をそっと撫でる。

｢パパのかわりに、おいわいするため。｣

『…かわり…？』

｢ほんまは、じぶんでおいわいしたかったけど、それがむりやからいっぱいありがとうっていってあげてなー？って｣

『…崇裕…さ…』

ボタボタとこぼれ落ちた涙。

｢ほら。パパがあたまよしよししてる。なかんといて～って｣

『そっか、そっか…』

余計に涙が溢れ出した。

そして、ありがとうね、と娘を強く抱きしめた。

きっと、崇裕さんも一緒に。

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