第2話 ページ3
本当はこんなはずじゃなかった。
そもそも、ボーダーを辞める際にある程度の記憶を消してもらう予定だった。ではどうして私は今、全てをガッツリ覚えたまま感傷に浸りながらやめようとしているのか。
それは、城戸さんに言ってからきちんと許可が降りて、後日後いざ記憶を消そうとした時。
.
「本当にいいのか？」
相変わらずの無表情で鬼怒田が呟いた。
いや、無表情という訳では無い。若干怒った顔をしている。まあでも、鬼怒田さんはそもそもテンプレがこの顔だから無表情であながち間違っていない。私はぼんやりとそんなことを考えながら用意していた答えを出した。
『はい、ボーダーに入ってたことだけ覚えておけば。きっと何か人の役に立つことを自分で見つけられると思っています』
人の役に立ちたいというのは紛れもない本心だった。本心だったけど、言い訳だった。
「………そうか、じゃあさっさとやるぞ」
『はい』
記憶が消える、というのはどういう感覚なのだろうか。意識が途絶えてから消えるのか、知識は全くなかった。機密の中の機密だ。多分太刀川も知らない。
そして記憶を消されたこと自体の記憶が消されるか、記憶が消される前後の記憶も消させるのだろう。
完全に情報を漏らさないというわけだ。
若干嫌気がさすと同時にこういう見え隠れするボーダーの血なまぐささはあの上層部の組織らしいなあとも思う。
そうして私の頭にいかにも怪しげな装置がはめ込まれたその時だった。
「ごめん、ちょっといいかな」
「迅！？」
『え、』
咄嗟に目を逸らした。酷くわざとらしかったのが自分でも分かる。
迅さんはそれを気に止める素振りもなく、ただ淡々と言った。
「城戸さんが、記憶は消しちゃだめだってさ」
『え、なんで………？』
「まあまだ記憶は消してないとはいえ………城戸司令がなんでわざわざ止める？」
「さあ、そこまではわかんないよ」
じゃ、と最低限のことを伝えて帰っていく迅さんの背中をAは途方に暮れて見つめる。
『鬼怒田さん、………これ、強行突破で記憶消したら怒られますかね……』
「……ああ、怒られるだろうな。わしが」
『………じゃあ、そろそろ私の記憶消してくれますか？』
「どう考えても今の流れで言うことじゃなかろう」
鬼怒田さんは大きなため息をついて、私をドアまで押し出し、手でしっしっと追い払った。
最後まで結局私にはどこが冷たくて、でもそのいつも通りが少し心地よかった。
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天(プロフ) - 君の瞳に鉛弾さん» コメントありがとうございます！関係性はゆっくりゆっくり変わっていっているのでそこに気がついてもらえてとても嬉しいです。これからも遅めのペースにはなりますがしっかり更新していきたいと思うので、ぜひこれからもよろしくお願いします！ (2021年7月1日 17時) (
レス) id: b90335b0cc (このIDを非表示/違反報告)
君の瞳に鉛弾 - もうただひたすらに三輪くんと主人公の関係性変化に至る過程が大好きすぎて…三輪くん長編で完結してる作品て全然無いので余計にこれからの展開が楽しみです。作者様の負担にならない程度の更新を気長に待ってます。 (2021年6月30日 23時) (レス) id: 04b80a02c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：天 | 作成日時：2021年6月28日 20時
