07。キヨと雨の日 ページ15
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「わ…雨、強いね」
今日分の営業を回り終えて、会社に戻ろうというタイミングでゲリラ豪雨に降られてしまった。
いつもカバンの中に入っているはずの傘を探すがどこにも見当たらない。
「俺、傘ありますよ」
キヨくんが黒い折りたたみ傘を取り出した。行きましょうと言いながら当然のことのように傘に入るよう促される。
「いや、申し訳ないし…」
「え、じゃあどうやって帰るんすか」
「うっ…」
仕方なく、彼の傘に入れてもらう。すぐにタクシーを捕まえようと道路の方を見るが、同じようなスーツ姿の人たちが次々と車に乗り込んでしまう。
「歩いて戻りましょ」
「…そうだね」
彼の横にピッタリついて歩くと、私の目線は彼の耳元にも届かなくて、男らしさを実感する。
「やっぱり、キヨくんって背高いね」
「今更っすね。先輩が小さいんすよ」
軽く笑いながらそう言われる。前より話す時に感情を出してくれるなとは思っていたが、彼に余裕が出るほど私の余裕は削れていく。
彼のペースに飲まれちゃダメだ。そう思っているものの、難しいのが現実。
「う、うるさいなあ。」
精一杯の頑張り。私の余裕、これだけって…
「…かわい」
小さく呟いたつもりのようだけど、この距離の近さじゃ聞きたくなくても聞こえてしまう。少しだけ気まずい空気が流れる。
無言で歩いていると段々と強まっていた風が突如として強風に変わった。
「わっ…」
傘はバキッという不穏な音とともに逆さまに開いた。タイミング悪く、車道側の木の下にいた私は葉から滴る水も全て体で受け止めてしまった。
雨は先ほどより弱まっていたが、それでも強く、止みそうにない。急いで近くの建物に隠れた。
「先輩大丈夫っすか?どーしよ…拭くもの…」
「大丈夫。キヨくんも濡れてるし…っはくしゅ」
「全然大丈夫じゃないし…あっ!俺あそこで買ってきます」
運良く、建物の中に雑貨店がありタオルと傘を買えた。とは言え、全身が雨に晒されたことに変わりはなく会社に戻るよりも自宅に戻った方が良さそうだ。
「部長に直帰するって連絡したっす。先輩、家どの辺っすか?」
「うーん。ここからなら電車で20分くらいかな。」
ジャケットが雨のせいで重く、脱いで絞っていると先程買ってきたバスタオルを肩に掛けてくれた。
「それなら家寄りません?シャワーだけでも済ませた方がいいっすよ。」
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sawa0717(プロフ) - レトさんの夢小説を探していたところこの作品に出会いました!みんな口調にも違和感がなくとても面白かったです!!!最終投稿日から日が空いてしまっているのですがレトさんと喧嘩してしまって夢主ちゃんが泣く的なシュチュが見たいな〜と、更新楽しみにしております (2022年12月3日 22時) (レス) id: bed7cc28ea (このIDを非表示/違反報告)
ぴより(プロフ) - ゆゆゆさん» コメントありがとうございます(;o;)しばらくぶりの更新にこんなに嬉しいコメント頂けると思いませんでした!とても励みになります!!ゆっくり更新の分質を高められるようにがんばりますので気長にお待ちくださいo(^o^)o (2021年2月8日 0時) (レス) id: 03f42a40b0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆゆ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。以前から拝見させていただいており、更新を待ち侘びておりました!お忙しいとは思いますがお身体に気をつけて、これからも更新楽しみにしております! (2021年2月6日 0時) (レス) id: 89ceb73b2b (このIDを非表示/違反報告)
ぴより(プロフ) - 六花さん» リクエストありがとうございます!とわこさん描きたいと思ってたのでそのネタ頂きます、、!笑 順番に書いていくので少々お待ちください! (2019年12月13日 21時) (レス) id: f82d25de14 (このIDを非表示/違反報告)
六花(プロフ) - ぐっとくる設定で好きです!!サブキャラをメインで書くことってありますか?あるなら夢主ちゃんがとわぽんorとわぽんが夢主ちゃんの夢を見る話とか見てみたいなあと思います (2019年12月8日 16時) (レス) id: 9a3b31f982 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴより | 作成日時:2019年10月17日 23時