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「…………ねえ、」
どのくらいの間、そうしていたのだろう。
私は岩泉の服の裾を掴んで、三度目の涙を必死で堪えていた。
「なんで、知ってたの」
泣くな、と考えるほど目頭は熱くなっていく。
彼は知らないはずだった。
単純な、私の片想いだった。
決して彼に迷惑をかけるなんてこと、私はしたくはなかった。
岩泉は、私の大切な友人だったから。
「及川に聞いた」
その答えは模範的で、なんの違和感もない。
そうだ、あの人のことなんだからそれくらいするだろう。
女の人を傷つけたってのは、及川にとって気に病むくらいのことなんだろう。
その事実が、私にはなんだか癪だった。
「……別に気にしてないよ、私。
もう終わったんだから、さ」
平気、と笑おうとするのに、涙が邪魔をする。
雨の降らないこの空間が、今はすごく鬱陶しかった。
霧雨は私を隠してくれなかった。
それどころか、嗚咽は酷くなる一方で。
呼吸できなくなる。
「落ち着け」
咳き込む私の背中を撫でながら、そうやって岩泉は息を吐いた。
「俺が居る」
ああ、もう。
何度目かの視界がぼやける感覚に、悲しくなる。
そんなの、できっこないのに。
岩泉は私にとって友人でしかない。
大切で、良い相談役で、私と彼を結ぶ唯一の共通点。
及川には、なれっこなかった。
彼ほど女の人のことをわかっていないし、力強いし、ぶっきらぼうだし。
「……駄目、なんだよ」
だからこそ、そんな不器用な優しさに身を委ねてしまいそうで。
君を傷つけることでしかないような気がして。
私には、君の手を振り払う資格はない。
今までは、及川に近づこうとずっと追いかけて。
岩泉を利用していたも同然だった。
それなのに。
今度は君の優しさに甘えようとしている。
そんなのは、駄目だった。
私が許さなかった。
岩泉を利用している、という罪悪感が私を苛んで止まないのに。
「んなこと、わかってる」
じゃあ、なんで。
そう言いかけた私の頭を、さっきとは全然違う力加減で撫でる彼。
おかしくなりそうだった。
それでも、君の手が好きで振り払えなくて。
されるがままになっている私を、岩泉は笑った。
その様子に、私の心臓は呆気なく跳ねてしまう。
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作者名：ヰ都 | 作成日時：2017年9月30日 22時
