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「私にとって、及川は憧れでしかなかったの。
あいつの努力は私にはできないし、超えられなかった。

だから心のどこかで及川を目標として、ずっと追いかけてた」


憧れと恋は違う、と私は言い切る。



そこで区切りをつけなければ、努力の天才である彼をずっと見ていてしまうだろう。

彼に惹かれてしまうだろう。



それがなんとなく、嫌だった。



「気づかないうちに、だったと思うんだよ。

私は岩泉に惹かれてた。ちゃんと理由があった」


不器用で、ぶっきらぼうで、無愛想で、優しくて。

自分のことを考える前に誰かを支えようと行動しがちで。



だからあの日、君は私に傘を傾けた。

詮索してこない君の話が心地よかった。

君のその声が、好きだった。



「及川は、多分そんな私に気づいてたから。

私の言葉を簡単に無視した」



思えば、単純なことだったよ。


私の戸惑いとか、迷いとか、そういったものに彼は気づいてた。

わかっていた。


だから、ちゃんと目を合わせてって岩泉と私を引き合わせた。

何度も、岩泉が私を心配するメッセージを送ってきた理由がこれ。




ちゃんと言わなきゃ、伝わらないよ。

いつか、及川がそんなことを言っていた。





「私ね、自分の気持ちに嘘吐いてた。

私が好きなのはずっと前から変わんないよ」


だから、と息を吸った私に被せるように彼が言う。




「知ってる」

「……は?」

「俺はてめーが好きだ、だからわかる」



いや、わかんないんだけど。


ぽかんとする私に岩泉は小さく笑った。



その様子が彼らしくて、なんだかすごく顔が熱い。



「……嘘に決まってんだろ。

及川から聞いたんだよ」


気づけなくてごめん、と気まずそうに目を逸らす彼。


謝られるようなことじゃない。


それでよかった。それがよかった。

君が知っていたなら、幾分かは私の気持ちが軽くなる。



「……もっかい、ちゃんと仕切り直そう?」



変な間が空いてしまったせいか、どんな表情をしたらいいのかわからない。


岩泉は私の意図を理解したのか、照れくさそうに笑った。



「すきです」

「……ああ、俺もだ」




雨が止んだ。

水溜まりだけがそのことを告げている。



水面に映る空は冬を告げて。


残滓でしかなかった私は、新たな道を歩んでいく。



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作者名:ヰ都 | 作成日時:2017年9月30日 22時

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