第二十五話 ページ26
その瞬間に僕の背中辺りから黒い靄が出てきて、僕と五条先生の前に二つの形を作っていく。
だんだんとその姿は人の形をしていく。
そう。靄は僕の母と父の姿になった。
「やぁ…A大きくなったなぁ。な!紗栄子」
「そうね…本当に大きくなって……A!」
母が僕に向かって抱きついてくる。靄から出たとは思わないほど…形があって…暖かくて心が満たされる感覚だ……
どこからどう見ても、いつも見ていた遺影の二人と同じ顔をしている。
「五条もうちの息子が世話になってるな…これからもよろしく頼むぞ。」
「はい。任せてください一条さん。」
未だに母さんは僕にずっと抱きつき、鼻をすすっている。泣いているのだろうか…
「A…貴方が怒りに任せて力を振るう必要は無いのよ。」
「そうだ…お前が夏油如きに熱くなってどうする!?お前は母さんと父さんの息子だろ?」
「でも、でも!アイツは母さん達を…!殺して…!」
「それはもう過ぎた事だ…俺達もアイツに取り込まれず、こうやってお前の傍にいてこれた。アイツの目論みは外れたよ。」
「けど、僕は一緒に生きたかった!家に帰ったら二人がいて…一緒にご飯食べて…それから…!」
今まで一人だったからだろうか…いつもは寂しいと思った事はなかった…いや、本当はずっと寂しかったんだ。
自分の心に蓋をして隠してきたけどずっと寂しかった…
父の暖かくて大きな手が頭に乗っかる。
「今まで寂しい思いさせちまってたんだなぁ…近くにいて気づかなかった…ごめんな。辛い思いさせちまってよ…」
母は目に大粒の涙を浮かばせながら僕の耳元で囁く。
「辛かったよね…寂しかったよね…ごめんね…貴方を守るためにやったことだけど…結果的に貴方を悲しませてしまってたわ…」
そう言われ…何故か心の中の鎖が解け、氷が溶けたみたいに心の中で暖かい感情が溢れてきた。
「うん……うん……!」
いつの間にか目には涙が溜まり、頬までずり落ちていった。
そこからはもう涙が止まらなかった。
涙の止め方を…忘れてしまったみたいに。
「男は泣いたら泣いた分だけ強くなるんだ……いっぱい泣け…いっぱい喚け…今だけは…全部受け止めてやる。」
母の後ろに父が腕を僕に回して二人を抱きしめる。
とても…とてもあったかい……
その時は時間を忘れ…目が腫れるほど大泣きした…
その間、母も父も五条先生もとても優しい顔をして…僕を見つめてくれていた…
40人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハクスイ | 作成日時:2019年7月2日 5時