第1夜 ページ2
暁月side
アレは、不思議な体験だった。
今から約十数年前のことで鮮明には覚えていないが、『ソレ』を見たときに衝撃を受けたのを覚えている。
俺がお世話になっている院の前に置かれていた小さな籠と、その中に入っていた小さな赤ん坊。そして、『
何故か、この子を守ってやらねばいけない、と思った。たとえ、自分の身を呈してでも。
この子が、俺たちの希望の光だと。
そして、今では本物の弟のように接している。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
いつも通りの朝、日課のランニングと稽古を終えて、ユキがいないことに気がついた。
「おばさん、ユキ知らない？」
「ユキくん？ それなら、さっきポストを見てくるようにお願いしたんだけど...」
「わかった、ありがとう。見てくるよ」
おばさんの言葉の通りにポストに向かえば、何か郵便受けに入っていただろう手紙を手にして固まっているユキがいた。
驚かせてやろうと気配を消して、後ろからこっそりと近づいた。そこで、ふと手紙の内容が気になって、覗き見は悪いと思いながらも、つい覗いてしまった。
そこに書かれていたのは、
『桜井夕月死ネ!!』
の文字。
しかも、ご丁寧に切り貼り形式だ。
「ユキ...なんだよ、ソレ」
「...っ！？ あ、アキさん！？ こ、これは...その...」
ユキは慌てて手紙を身体の後ろに隠す。しかし、俺は生まれつき記憶力は良いのだ。先程書かれていた内容は、今のユキの態度が事実だと語っているし、記憶もそうであった。
だとすれば、ユキに脅迫状を送るような輩がいる、ということだ。
知らず知らずのうちに目付きが剣呑になる。このときは顔が整っているだけに余計に怖い、といつか言われたのを頭の隅で思い出す。
「ユキ、もっかい聞くぞ。なんだ、ソレ」
俺の睨みつけるような目付きに見据えられて、ユキが逃げ切ったことなど1度もない。視線を一切逸らさずにじっと見つめ続けていれば、ユキが遂に音を上げた。
「ポストに入ってて...送り主は分からないんですけど、前に、学校の下駄箱にも入ってたんです」
「なら、犯人は学校関係者ってことになるな...」
「アキさん、お願いします！ 誰にも、この事は言わないで下さい！ みんなに迷惑かけたくないんです！」
いつもなら頷かないが、ユキの必死な様子に、思わず頷いてしまった。
ユキは、優しすぎるんだ。
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作者名：大神銀 | 作成日時：2019年8月26日 21時
