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「待って......！」
誰もいない放課後の廊下に、私の声が響き渡った。
前を歩く吉野くんが立ち止まって、ゆっくりと振り返る。
その瞳は、切なすぎるほど、深く暗い色をしていて
『吉野、くん、？』
そう呟いた瞬間、手首を掴まれ、ぐいっと近づく吉野くんの顔。
いつもと違う、強引で荒々しさをはらんだ吉野くんの表情に、心臓がドキドキする。
か、顔が近いよ......っ。
私を見つめて、吉野くんが口を開いた。
北「なんでほかの男に抱きしめられてんの.......」
『え、？』
北「あいつじゃなくて、俺を見てよ。あいつにもう、笑顔見せないで」
『......っ』
怒気を含んだような、かすれた吉野くんの声。
その瞳は、切なさと苦痛の色に染まっていて...。
どうしていきなり、そんなこと言うの、？
『笑いかけないでなんて、むりだよ...っ』
柊くんは友達だもん...っ
北「.......あぁ、そっか....。ごめん、今日は俺、ひとりで帰るね。ちょっと、頭冷やさせて」
え.....？
切ない声でそう言った吉野くんに、私は思わず目を見開いた。
どうしてそんなに悲しそうな顔するの....？
吉野くんは立ちすくむ私の手首から手を離すと、さっと背を向けて歩きだした。
いつもの、吉野くんじゃない。
あっけなく離れていく二人の距離。
今まで見たことのない吉野くんの態度に戸惑うとともに、胸が苦しくなる。
『どうして.....帰っちゃうの....？』
やっとのことで絞り出した私の言葉に、吉野くんが足を止めた。
だけど、何も答えてくれない。
私、嫌われちゃった...？
北「.....じゃあね」
こちらを見ないまま手をあげて、再び歩き出す。
吉野くんが行っちゃう....。
さっきの吉野くんの切ない表情が頭をよぎる。
今離れたら、私たちの心が永遠に離れ離れになっちゃう気がして。
遠ざかって行く背中は、曲がり角を曲がると、私の視界から消えてしまった。
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作者名：MINT | 作成日時：2020年2月21日 18時
