オムライス ページ5
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『アンタ何やってんの?』
部屋に戻ると、男はキッチンで何かを作っていた。
「ん〜?オムライス作ってんだよ。食うだろ?」
冗談じゃない。
変な薬でも混ぜられた日には本当にやばい事になる。
『要らない。』
「まぁいいから、座ってろよ」
『どこに座れって?』
男の部屋にはテーブルも椅子もない。
「あはは!だな!まあテキトーに座ってなよ」
と、優しく笑った。
優しく笑う男。それがわたしの第一印象だった。
男に言われたことを無視して部屋に干してあるコートのポケットを漁ってタバコとライターを取り出す。
タバコは湿っていて、カチカチと何回か火をつけようと試みたがダメだった。
『ねぇ、タバコ持ってない?』
「ねぇよ。これならあるぞ」
と、小さな箱を投げてきた。
それはタバコの形をしたラムネの駄菓子。
食べるわけがない。
「なんか食ったの?」
『別に。』
学校で昼食を食べて以来何も食べてなかったが、別にお腹は空いていなかった。
「できた!」
男は皿に盛り付け、旗を刺したオムライスをわたしの所に持ってきた。
これはオムライスなのか?と思うくらい酷い見た目をしていた。
中のケチャップライスはいいとして、問題は卵だ。
破れまくりで、中にあるはずのご飯が丸見えだ。
胃に入れば一緒だろ!と男は笑っていた。
取り皿ないけど、とスプーンを渡してきた。
『話聞いてた?わたし食べないっていったんだけど。』
「変なもん入ってないから、食えよ!旗のついたオムライスってアガるだろ?」
『意味わかんない』
この男やっぱり馬鹿だ。
男は目を輝かせながらオムライスを頬張る。
仕方なくわたしも、オムライスに手を伸ばし食べる。
「美味しいっしょ?」
『…フツー。』
ヒデーなんて男は笑っていた。
味はフツーで、決して美味しいと言えるものではなかった。
それなのに、久しぶりに誰かの手料理というのもを久しぶりに食べたからなのか涙が出そうになった。
涙を堪え、少し俯きながら食べた。
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作者名:もあ | 作成日時:2021年6月9日 12時