私の話を聞いてくれ (ページ1)

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本屋のチベットスナギツネ① ページ1

少し暑さが目立ってきたある日。

「なんで私が…」

その日私は本屋に来てた。
母が『どうしてもあの小説が欲しい』を駄々を捏ねたのだ。自分で買いに行くのが面倒くさいのか" いつも家事手伝ってくれないくせにそれぐらいしてくれてもいいでしょ "と言い無理やり家から出された。
いつでも本屋に置いてある小説なんだからいつでも買いに行けばいいのにと思いながらも、機嫌を損ねると夕食のおかずを抜きにされそうな勢いで流石によく食べる私にとってそれはキツいことなので避けたかった。

「いらっしゃいませ～」

語尾が間延びした店員がお決まりのフレーズを言う。
確か名前は…、と母が言っていた小説のタイトルと小説コーナーにちゃんと作者順に並んでいる小説の背表紙を照らし合わせる。

「あっ、あった。これだ」

目で探しているとお目当ての小説が見つかった。
迷わずその小説に手を伸ばそうとするがその手は私の知らない手とぶつかり本棚から取り出すことが出来なかった。
手がぶつかったことに驚き隣を見ると、同じようにこちらを見る男性が一人。
探すのに夢中でいるのに気がつかなかった。
目が鋭くて思わず怯んでしまう。

「え、あ…の、すみません」

軽く謝るその男性に慌ててこちらこそと謝るが少し気まずい。
同じところに手を伸ばしたということはそういうことだ。だが残念ながらこの小説は残り一冊なのだ。
小説の入っている本棚のに目上に『残り一冊』とあまり目立たないが大事な情報が書かれている。
なので母に夕飯を抜かれたくない私は何としてでもこの本を手に入れなければならない。

「すみません、その…」

心の中で『譲れと言え！！！頑張るんだ私！！！！』と応援するが初対面の人にそんなに強気で話せるわけが無い上にさっきから思ってたが相手の男性は背が高く、なんというか…チベットスナギツネみたいで変に威圧感というかオーラというものを感じて怖い。
相手はどうしようかとすごく困っている様子を見れば
きっとこの人もこの本を探していたんだろう。