とある研究員の資料 2【実況者】 (ページ29)

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突然のことに、私は首を傾げた。

「先生のせいやって言うのは、確かに得が無いなぁ」
「･････何が言いたいんだ」
「いや？ただ、一人ぼっちの先生を見たいってだけや。それだけで俺らには得があるし、何よりカワイソウな先生をずっと見れるやん。俺らだけが、それを見れる」

まただ。また、”かわいそう”。彼らは決して教えないくせに、何度も何度も言う。まるで当てつけかのように。

「教える気が無いなら言わないでもらいたいね、その言葉」
「頭を捻る先生を見るのがええんやん」

けらけらと笑う鬱の手元には、火の付いた煙草が収まっている。紫煙が鼻をくすぐり、嫌な匂いに顔を歪めた。

「出もしない答えを、必死に探す先生はカワイソウなんよ。カワイソウで、どこにも行ってほしくないんや」

彼の表情に、不意にその言葉を理解した。思えば”カワイソウ”と言う時だけ、皆一様にまるで慈しむような目をしている。もはや不気味だ。･････いや、あぁ、そういうことか。

「･･････カワイソウ、か」
「あれ、先生気づいたん？教えて信頼勝ち取ろー思ったんに」

とん、と軽い足音が聞こえ、ニット帽から溢れた茶髪が揺れている。

「あぁ。今まで気付かなかった自分が馬鹿らしく思えるぐらいね」
「やっと俺の努力が報われたみたいでええなぁ」
「それなら素直に教えれば良かったじゃないか」
「そんなん楽しくないやん」

そんな彼に続いて白い紙面が目に映る。これ以上、足止めを喰らいたくないのだが。

「それはそうと、私がカワイソウと言われる筋合いは無い」
「ヴァイン先生は十分カワイソウやろ」
「私にとっちゃ、君たちの方が可哀想だよ。こんな場所に幽閉され続けてさ」
「先生、まだそんなことを言っているんですか」

予想通り半分驚き半分、といった様子で、エーミールは首を傾げていた。