君を、想ふ -北藤-

32 ページ32

北山と病院に向かった。

俺が運ばれて検査を受けた病院だ。

頭の中を診てもらっても、異常はない。

ただ…記憶がないだけ。

どうすればいいの？

肩を落とす俺に、北山が背中をさすってくれる。

「北山」

「ん？」

「ちょっと、先生と話があるから先に出ててくれる？」

「……分かった」

北山と看護婦さんがいなくなって、２人になった。

「…先生」

「どうしました？」

「記憶が戻ったら…記憶の無い俺は、消えますか？」

声が震える。

「記憶の無い俺は…存在しなくなるんでしょうか？」

涙が込み上げる。

「皆が、記憶が戻ることを望んでる。俺がここにいるべきじゃないことは分かってます。分かってる

けど…皆と一緒に居たいんです。でも…痛みの間隔が狭くなって…痛みが続いて…きっと、怒ってる

んですよね。返せって…お前じゃないって…本当の俺が」

北山に言えないことを、先生に吐露する。

「記憶のある藤ヶ谷さんも、記憶の無い藤ヶ谷さんも…どちらも藤ヶ谷さんです」

先生が…俺を認めてくれる。

「怖いんです…消えるのが。北山の…皆の記憶からいなくなるのが、コワイ…っ」

「いなくなりません」

スッと、その言葉が届いた。

「大丈夫です。誰も否定しません。ちゃんと思っています。藤ヶ谷さんのことを」

「……ありがとう、ございますっ」

怖い、北山を傷つけることが。

記憶が戻ることを願う北山を傷つけてしまう自分が、怖い。

ここにいたい…そう願いのは、ダメなんだ。

診察室を出ると、外で待っていた北山がそばに来た。

「目が○んでる。泣いたのか？」

「…ううん、大丈夫」

先生に気持ちを聞いてもらって少し、楽になった。






もう少しだけ、ここにいさせて。


そう願うけど。


皆との別れは、もうすぐそこまで来ていた。

33→←31

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す