声を失った姫 -北藤- (ページ7)

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～宏光Ｓｉｄｅ～

たいが眠った後も、俺は寝れずにずっと姫の寝顔を見て朝を迎えた。

原因を考えてみる。

仕事のプレッシャー？

そんなの、今に始まった事じゃない。

なら…とても辛くてショックな出来事があった…？

収録が終わってたいが倒れるまでの時間を計っても３０分も経ってない。

その間に何かあったと考えるのがしっくりくる。

昼から仕事だ。

姫を一人にしたくない…。いつもは楽しくてしょうがない仕事も、行きたくない…。

どうしたものか…。

腕を掴まれて我に返ると、たいが目を覚まして俺を見上げていた。

「おはよ、姫」

『おはよ』

「起きるか？」

『うん』

手を引いて寝室からリビングに移動。

たいをソファーに座らせて、キッチンに立つ。

ハムエッグと、たっぷりの牛乳と砂糖と卵に食パンを浸してフレンチトーストを焼く。

ＴＶをつけて見ていたたいが、トーストの良い匂いに、そばに来た。

「美味そうだろ？」

『うん。いい匂いっ！！』

たいの笑顔に俺も嬉しくなる。

皿に盛りつけてたいに渡す。

「これ運んで」

『はぁいっ』

音としては聞こえないけど、たいの声は俺の耳に届く。

ちゃんと届いてるよ。

朝食を食べて、ゆったりまったりしてるとあっという間に仕事に行かなきゃいけない時間になった。

準備して、玄関に向かう。

後ろをついてくるたいを振り返った。

「たい…一人で、大丈夫か？」

聞くと、部屋から持ってきていたペンで小さなノートに何か書いた。

それを読むと…。

『もう三十路前の大人ですっ！一人で留守番くらいできますぅ』

「あのな…俺はもう三十路越えてんだよ。背は小っちゃいけどな」

たいは肩を揺らして笑ってるけど、声は出ない。

「夜８時には帰るから、それまでここで待ってろよ。どこにも行くなよ」

そう念を押すと、たいが頬を膨らませる。

『子供じゃないもんっ』

唇を読んだ。

「言い方がもう子供じゃん…じゃあ、行ってくる」

『いってらっしゃい』

ドアが閉まる瞬間、たいの寂しそうな顔に、胸が痛くなった。

早く仕事終わらせて、帰ろう。意識を仕事に切り替えた。