声を失った姫 -北藤- (ページ5)

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「今ちょうど、仕事量は落ち着いてますのでゆっくり休んでください」

巽さんの言葉にたいが俺の手を強く握る。

お礼を言って車を降りる。

たいと手を繋いだまま家の中を歩く。リビングに向かい、ソファーに座る。

「たい。起きてしまったことは仕方ない。声が出るように、ゆっくり休んで少しずつ、元に戻してい

こう。俺もいるから、一緒に頑張ろうな」

頷いて必死に笑顔でいようとする姫。

聞きたいけど、たいを苦しめたくない。

すると、たいがゆっくりと唇を動かした。

『夜…抱いてくれる？声、出ないけど…』

「ひ～めっ」

後頭部に手を添えて、引き寄せた。

「姫の声が出なくても、俺の気持ちも態度も変わらないよ」

その夜、たいは俺に抱かれながら…何度も『ごめん』と言った。

なんで謝るんだ？

「たい…愛してるよ」

涙を拭いながら伝える。

求められるままに何度も抱いて、疲れて隣で眠るたいの寝顔を見つめる。

綺麗に後処理をしてベッドに入ると、寒いのか体を摺り寄せてきた。

たいが、今にも消えてしまいそうで、ギュッと抱きしめる。

「ずっと愛してる。今までも、そしてこれからもずっと…俺の、俺だけの姫」

抱いても抱いても…不安で、心が満たされなくて…。

こんなに愛に溢れた行為が苦しいのは、初めてだった。