声を失った姫 -北藤- (ページ4)

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袖を引っ張られて、たいを見る。

『帰りたい』そう唇が形作る。

「先生。俺達、一緒に住んでるんですけど、何か気をつけることはありますか？」

「失声症の方の症状は過呼吸になってしまうことです。その時は慌てず、紙袋を口に当てて呼吸させ

てください。二酸化炭素を吸う事でラクになります。ビニールやナイロンの袋はやめて下さい。逆に

喉を塞いで息ができなくなりますので。そして、無理に声を出そうとしないでください。声帯を傷つ

けてしまうこともありますから。後は…」

先生がたいを見た。

「自分を追い詰めない事です。心因性の主な原因として、仕事のストレスや周りからのプレッ

シャー、それと…とても辛くてショックな出来事があった時などが理由です。心と体をラクにして楽

しい事を考えて下さい」

先生が分かりやすく教えてくれる。

「鎮静剤と睡眠薬を出しておきます。心が不安な時、眠れない時に飲んでください」

薬を処方してもらって巽さんの車に乗り込む。

「どうでした？」

「失声症だと言われました。原因は、心の問題だと」

たいが俺の手を握る。

「藤ヶ谷さん…原因が何か分かってるんですか？」

巽さんの質問に俯く姫。

「あ…すいません。声出ないんですね」

たいが巽さんに頭を下げる。

たい。ちゃんと声は出るようになるからな。

姫に寄り添うから、一緒に頑張ろう。

先の見えない不安に、必死に笑顔を作ろうとするたい。

大丈夫。たいの声は絶対、また出るようになるから。

巽さんにマンションまで送ってもらった。