声を失った姫 -北藤- (ページ18)

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ひろが帰ってきて、最後は俺の番。

「たい、大丈夫か？」

ひろが小声で心配してくれる。

『うん。大丈夫。全部、ノートに書いたから。行ってくるね』

ひろとメンバーに手を振って楽屋を出た。

別室のドアをノックして入る。

中にはマネージャーがいるはずなのに…いない。

代わりにいるのは…俺の声が嫌いだと言ったあの人だ。

怖くて、足が動かない。

ドアの前から、一歩も前に進めない。

なんで、マネージャーがいないの？

「藤ヶ谷さん？どうされました？ここに座ってください」

あの人がそばに来て俺の腕を掴む。

嫌だ…。

引き摺られるようにテーブルのところに連れて行かれる。

椅子に座らされて肩を両手で上から押さえつけられた。

圧迫感と嫌悪感に体が震える。

そんな俺を見て、記者の人が心配して声をかけてくれるけど、恐怖でそれどころじゃない。

ノートを渡して椅子から立った。

急いで部屋を出る。

廊下の向こうでマネージャーの姿を見て走った。

楽屋と別室の中間辺りでマネージャーにしがみつく。

怖い…怖いっ！

「藤ヶ谷さん！？どうされました？取材、呼ばれたので行きますよ」

今、行ったらマネージャーじゃなくてあの人がいたんだ。

首を横に振って行きたくないと伝える。

「後は取材が終われば帰れますから」

嫌だ…行かない。帰る…皆のとこに帰るっ！

俺はマネージャーの腕から逃げて、楽屋に走った。

そして、気づいた。

ずっと、記憶の中に感じていた違和感…。

楽屋のドアを開けて、ニカと遊んでるひろに抱きついた。

「うぉっ！藤ヶ谷！？もう終わったのか？」

ノートを置いてきてしまったから口で伝える。

『帰る。帰りたいっ』

「落ち着けよ。どした？」

「藤ヶ谷さんっ！？」

追いかけてきたマネージャーに連れてかれると思って、ニカの後ろに隠れた。

涙が溢れて止まらない。

そばに玉が来て、俺の背中を擦ってくれる。

「みつ、ガヤが怯えてる。何かあったんだよ」

「藤ヶ谷？」

口で伝えても早口でひろが分かってくれない。

「宮田。ノートとペンちょうだい」

「はいよ～」

玉が機転を利かせてくれる。

俺は、アニメのノートに書いた。

マネージャーがいなくて、代わりにあの人がいたことを。

そして…違和感の答えを書いて見せた。

そう…俺が声を失った原因はもう一つあった。

どこかで聞いたことがあると思った。

あの人の声…俺に似てるんだ。

俺は…自分の声で、自分の声が嫌いだと否定されたんだ。