声を失った姫 -北藤- (ページ11)

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今日の夕飯は豚の生姜焼き、海藻サラダ、味噌汁を作った。

鍵を開ける音がして、玄関に向かう。

「ただいま」

「おかえり」

『ご飯食べたら、話したいことがあるの』

ノートに書いて見せた。

「分かった」

ひろと手を繋いでリビングへ。

椅子に座って手を合わせた。ひろが食べる様を見つめる。

「うまぁっ！」

頬をパンパンに膨らませながら食べる姿は…子リス。

美味しいと、全部食べてくれたひろ。

歯磨きと寝る準備をしてベッドに並んで座った。

Ａ４サイズのノートにしてページを開いた。

『声が出ない原因は、自分で分かってるんだ。今から話すから、聞いて欲しい』

「うん」

ひろが文字を読んで頷いてくれる。

その前に…。

服の袖を引っ張って目を合わせた。

『俺の声、好き？』

口で聞いた。

「好きだよ」

即答してくれる。

そうだよね…昔から、俺の声が好きって言ってくれてるもんね。

ペンを持ってふぅっと息を吐いて文字を綴った。

『あの日、男の人に空き部屋に連れ込まれて…俺の声が嫌いだって、言われた。うるさいからしゃべ

るなって』

我慢できなくて涙が溢れる。

頬を伝った涙が、ノートに染み込んでいく。

『この世には、俺の声が嫌いだって思ってる人がいるって、初めて知った。面と向かって言われたか

らびっくりして…ショックで…怖かった。中川さんと田山さんのこと思い出したから』

中山さん→「たいは、俺が守る」田山さん→「めぐり逢い」で執筆中。

ひろが、ペンを持つ手を握ってきた。

「そっか…あの時の事、思い出したのか…辛かったな。苦しかったな」

ひろが俺の気持ちに相槌をうってくれる。

「相手の顔は見た？」

『うん。でも、知らない人だった』

「そっか…」

心の奥底にある思いを書いた。

「俺の声、いつになったら出るの？ずっと、声が出なかったどうしよう！このままじゃ、皆が離れて

くっ！ファンの皆も、メンバーも、ひろも…っ』

「たい。落ち着け」

『離れないでっ。俺を見捨てないでっ』

殴るように乱れた文字で伝える。

声が出ないのは、怖い。

でも、もっと怖いのは皆が、俺を必要としなくなること。俺の存在が記憶から…消えてしまうこと。

泣きたくても叫びたくても、声は出ない。ただ、無音で涙を流すだけ。

ふいに唇に触れた…温かいキス。

「俺は死んでも、お前を離さない。誰も、お前を置いて行かないし、前に進むときは、一緒に連れて

いく。皆、お前のそばにいるよ」