【d!】我々の筆録【短編集】 (ページ10)

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『だってほら、今は愛なんでしょ？』

gr「…ﾏｱ？」

『愛してるって言えよォ』

Aはグルッペンの背中が大きくなる度、その隣に立てる女性になれるようにと成長してきた。そのひとつに口調がある。
国中の人間に伝わるようにと訛りをなくしたグルッペンに見習って、お淑やかな話し方を勉強した。
2人きりだと、どうしても、その被った猫が剥がれてしまう。

しかしそれは彼女の旦那も同じ。

Aのマグカップを奪ってテーブルに置き、その手を引く。
眼鏡がなくてもしっかり表情が見える距離になって、キスを落とした。

gr「…愛してる。せやな、たとえ全世界を敵に回そうと変わることは無い。死んでも変わらない。俺が先に死んで、Aが生き残って他に男を作ったら、呪ってやろう。」

『作んないわばーか。』

gr「おい愛してるって言えよ。言ったんですけど？」

『えぇ〜嫌やなぁ。』

別に気持ちは同じであるから問題は無いのだけど、そうも立派に告白されるとこっちもちゃんと考えてから話したい、というのがAの本音であった。

gr「なんでだよほらあくしろよ。」

『根っからの弁論家に勝てると思う？』

gr「お前なら出来るだろ。」

『はぁ〜だからさぁ〜？？』

グルッペンは話が上手かった。それを1番間近で聞いてきたのはAであり、支えてきたのもAだ。
一種の共同体とも言える関係性。

『たとえ…貴方が全世界を敵に回しても。こうして、貴方が国を背負っても。私は貴方の妻として隣で、貴方の名前を呼びたい。
愛してる、グルッペン。あんたが先に逝ったら追ってやるわ。』

gr「…そうだな。」

『何そのうっすい反応。』

gr「お前もこんなもんやったやろ、」

『返答にもなってない反応はしなかったと思うんですけど。』

お互いあらを探しては煽り、難癖つけて言い負かそうとする。
特別、自分の意見を押し付けるつもりは無い。
ただそれを楽しんでいるだけ。――要するに、そういう趣味である。

似た者同士の弁論大会は、Aの寝落ちで中止されたのだった。